友情以上、初恋未満

ひぐらしの鳴き声が響く夕暮れ道を歩いていた俺は、角を曲がった所でふと足を止めた。
自然と細めた俺の瞳には、オレンジ色に染まっていく公園の遊具だけが映し出されていて、俺の脳裏には幼い日の記憶が蘇る。
今は人っ子一人居ない砂場に、幼い日の自分の姿が見えた気がした。


『…ふぇ…っ…やめてよ、痛いよぉ…』
『なんなんコイツ。喋り方だけやなくて中身も女みたいやー』
瞳に涙を溜めた幼い自分の周りには、いかにも悪ガキ風情の男の子数人が取り囲んでいて、ゲラゲラと笑いながら、涙を流し蹲る自分を小突きまわしていた。

親の都合で東京から愛媛に引っ越してきたこの土地で、幼かった自分は標準語しか喋れない事を理由に苛められていたのだ。

いじめっ子たちが帰った後も暫くそのままの態勢で一人泣き続けていた自分の上に、黒い影が重なってきて。またいじめっ子たちが戻ってきたのかと思った俺は、顔を上げることなく身を強張らせた。

『なん泣きよん?大丈夫?』
緊張に固まっていた自分に向けられたのは思いがけず優しい声で、俺は涙を服の袖で拭うと声の主へとおずおずと視線を移した。
『……大丈夫、ありがとう』
そう返事をすると、にこっと笑顔を向けられて、つられるように自分も自然と笑顔になった。
『俺の名前タカ言うんよ、よろしくしてねぇ』
この地方独特の、なんとも間延びしたゆっくりとした口調は、いじめっ子たちが発していたのと同じものな筈なのに胸に優しく響いてきて、その日からタカは俺の一番の友達になったのだった。


「急に止まってしもて、どぉしたんよぉ」
ぼうっと公園を眺めていた俺は肩をトントンと叩かれて、現実へと思考を戻した。
苛められては泣いていたあの頃から既に十年近くが経過しているというのに、相も変わらずこの男の間延びした口調は俺の心を落ち着かせる。

「タカと初めて会った時のことを思い出してた」
未だ視線を公園に向けたまま素直に告げた俺の台詞に、横に並んで立っていた彼がフッと微笑んだのが気配で分かった。
「うわぁ、懐かしいなぁ。えらい可愛い子が泣きよるん見付けたもんやけん、気ぃついたら声掛けてしもぉてたんよー」

可愛いという単語に、ドキンと大きく胸が鳴る。

「な…何言ってんだよ。俺が可愛いとか、目が腐ってたんじゃねぇか?」
ドキドキと胸が鳴るのを誤魔化すように軽口を叩きながらタカを見ると、目を細めて愛しいものを見るような柔らかい表情で二人が出会った公園を見つめていて。
頬が赤く染まっていくのを誤魔化そうと、俺はオレンジ色の大きな太陽に顔を向けた。
俺の顔が赤いのは夕日に照らされているせいだと、そう自分に言い聞かせるように。

「ほら、もう行くぞ」
「ちょお待ってぇやぁ。先行かんでってー」
恥かしさからスタスタと足早にその場を後にした俺の後ろを、慌ててタカが追い掛けてくる。
十年もの間ずっと自分から離れず傍に居てくれた彼に、俺は何度救われただろうか。

幼い自分をどん底から引き上げてくれた彼は、今でも変わらず俺の事を親友だと思ってくれている。
事実、「俺ら親友やもんねぇ。めちゃ大好きやけんね」と、何度タカの口から告げられたか知れない。

……親友というポジションは、嬉しいような歯痒いような、訳の分からない焦燥感を俺に与えるのだけれど。
それでも、初めて会った時からずっと彼の一番で居られる自分を、誇らしいと感じる。

願うならば、この先もずっとずっと、彼の一番であり続けられますように。
俺もタカの事が一番大好きで、大切な存在なのだから…。
いつも自分の隣りを歩いていてくれる彼の横顔に、そっと願ってみた。

★あとがき★
この小説は、
47の世界に参加するために書いた物です。地元・愛媛が大好きなので楽しく書けました。
最後まで目を通して下さり、ありがとうございました。



2009/8/2


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