寒い日だから

日本の中では割と南に属しているだろう愛媛にも、冬の訪れを感じさせる冷たい風が頬を撫でる。
「さみぃ…」
ぶるっと身を小さく震わせた正和がポケットに手を突っ込むと、それにすぐさま気付いた靖貴は何の躊躇も無く自分のマフラーを外した。
「これ、使う?」
「え…?そんなことしたら、タカが寒くなっちまうだろ?」
差し出されたマフラーは、とても魅力的だけれど。戸惑うように問いかけると、靖貴は笑顔で正和の首にそれを巻き付けた。
「俺は大丈夫やけん、まあちゃんが使(つこ)て」
「…ありがと」
既に首に巻きつけられたマフラーは、先ほどまで使っていた靖貴の温もりも相まってとても暖かい。その暖かさを一度感じてしまっては、もう遠慮して外すことなど出来そうにもなくて、正和は素直にお礼を告げて靖貴の優しさに甘えた。

いつもは馬鹿なことばかり言ってるし、ふたりきりの時は必要以上にくっついてきて鬱陶しいと感じる時だってあるのだけれど。こうやって些細な優しさを見る度に、やっぱり自分は靖貴のことが大好きで、きっと自分から離れてしまうことなど永遠に起こらないだろう…なんてしみじみと思ってしまう。
そんなことを考えて幸せにふけっていると、隣からクシャミの音が聞こえてきた。
「やっぱり、タカも寒いんだろ?」
きちんと防寒具を持ってきていなかった自分が悪いのだし、申し訳ないと靖貴にマフラーを返そうと動かした正和の手は、しかし靖貴の手によって遮られてしまう。
「タカが風邪ひいたらどうすんだよ」
俺のせいで風邪ひくなんて嫌だからな、と少し強い口調で訴えても靖貴はマフラーを受け取ろうとはしない。
「まあちゃんが風邪ひくほうが嫌やもん」
「俺だって、お前が風邪ひくほうが嫌なんだよ!」
どんな痴話喧嘩だよと思われるかもしれないが、それでも二人にとっては重要なことで。自分のせいで恋人が病気になるなど決してあってはならないことなのだろう。
「ほんならさ、手ぇ繋いでええ?」
「…いきなり何言ってんの」
「そやかて、まあちゃんに風邪ひいて欲しくないし。手ぇ繋いだら俺も暖かいけん風邪ひかんやん?」
名案だといわんばかりの靖貴の台詞に、風で冷やされていた正和の頬に赤みがさす。
「誰もおらんし、ほら」
靖貴の広い手は、マフラー同様の魅力があって。辺りを見渡し人気のないことを確認した正和は、そっと靖貴の掌に自分のそれを重ねた。

寒い日だから。風邪ひいたら困るから。そんな言い訳を胸の中で繰り返しながら、正和の心はぽかぽかとした暖かさで満たされていった。


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