パスタ日和


「まあちゃん、スパゲティ食べたない?」
靖貴の一言から、今日の昼食は靖貴特製のミートソーススパゲティに決定した。
「タカ、何か変じゃねぇか、これ」
「えっ、何が?全然変やないよ」
いやいやいや、絶対おかしいだろ。何で挽き肉で作ったミートソースに、挽き肉で作ったミートボールを混ぜるんだよ。お前、どっちかと言えば魚好きじゃなかったか?
百歩譲ってお前が肉スキーだと仮定して、ミートボールには目を瞑ったとしてもだ。
「何でお皿を一つしか使わないんですか?」
あ、思わず敬語になっちまった。でも、それくらい俺には理解不能なのだと分かってくれ。
「いちいち小皿に取り分けて食うのか?」
「そんなんしたら洗いもん増えるやん。このまま二人でつついて食べるに決まっとるやろ」
……決まってたんですか、決定事項ですか。
「って、何でだよ!」
「じゃあ、まあちゃんは食べんのやね」
そう告げるや、靖貴は自分の方に皿を寄せて一人で食べ始める。
「いや、食べるけどッ」
俺だって腹は減っている。靖貴の摩訶不思議な行動にツッコミたい気持ちをグッと堪えてフォークをミートボールに突き立てた。


「で、何拗ねてんの?」
「…………」
腹が満たされご機嫌な俺と対照的に、食事を終えてからの靖貴は何故か不機嫌で、何かしただろうかと少し不安になってきた俺の目の前に、靖貴がある物を差し出した。
「……わんわん物語?」
それは、かの有名なディズニー映画の一つ、わんわん物語のDVD。
確か、スパニエル犬の可愛い女の子と雑種の男の子の恋愛物語だったっけ?
「……タカ、まさかとは思うんだけど……」
物語の中でデートしていた二匹が食べていた物を思い出す。って、まんまミートボールのスパゲティだったよな、あれ。
ガツガツ食べてたスパゲティが繋がってて、ポッキーゲームの要領でキスしてた二匹の仲睦まじい映像が脳裏を過ぎった。
「わんわん物語、やってみたかったのに……。不意打ちでキスしてしもて照れるまあちゃんを見たかったのに……」
「いやいや、フォークでくるくる巻き取ってから食うんだから、そんな事故が起こるわけねぇだろ」
あれは、犬が犬食いしてたから成立つ話じゃねぇか。
「機嫌直せよ、タカ」
「…………」
「おーい」
「…………」
駄目だ、夢が壊れて完全にいじけちまってる。
しょうがねぇ馬鹿だな、俺の恋人は。
「……ん」
このままじゃ埒があかないからキスしてやったら、あからさまに靖貴の機嫌が良くなっていく。本物の馬鹿だ。
「まあちゃん、大好き」
「……俺も」
……馬鹿な子ほど可愛いって、こういう事なのかもしれない。



★あとがき★
わんわん物語、大好きです。家族みんなあの映画が大好きで、むかし黒のコッカースパニエルを飼っていました。うちで飼っていたのはアメリカンコッカーで、わんわん物語の犬はイングリッシュコッカーだから、微妙に違うんですけどね。


2009/10/12




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