ずっと、いつまでもA


――ヴヴヴヴヴ…

完全に太陽が海へと沈んだ頃、ポケットの中で携帯が着信を告げた。のろのろと緩慢な動きで携帯を開くと、そこには靖貴の名前。
恐怖に震える指で通話ボタンを押すと、能天気な声が耳をくすぐった。
「もしもし、まぁちゃん?今から会えん?」
「今、から?」
「うん。実は今、まぁちゃんちの前におるんよ」
「……分かった…」
震えそうな声を押し殺し、やっとの事で返事をする。
今から、俺はフラれるのだろうか。とうとう靖貴は、俺から離れてしまうのだろうか。
みっともなく泣いて縋る事はしたくなくて、何度も顔を洗ってから玄関を開けた。

「まぁちゃん、会いたかった!」
いきなり、靖貴が抱き付いてきて。予想だにしていなかった事に、胸が震える。靖貴が何を考えているのか分からない。
「野暮用終わったし、これからはまた一緒やけんね」
ニコニコと笑いかける靖貴の言葉は、何と言っているのだろうか。
「これからは、一緒に居れる…?」
「うん!ここ最近、寂しい思いさせてしもて悪かったなぁ」
これからは、一緒?じゃあ、あの彼女は?
彼女が居るお前と平気で会えるほど、俺は身の程知らずの馬鹿じゃない。
目頭が熱くなってきて、グッと身体を押し退けて靖貴から離れた。
泣かないと決めたんだ。無様な姿を晒すわけにはいかないんだ…。

「今日、お前を見掛けたよ。可愛い女の子と、一緒に居た…あの子、誰だ…?」
涙を堪えて靖貴の顔を見つめると、見るからに靖貴に動揺が走った。
「何で目ぇ逸らすんだ…ちゃんと俺を見ろよ。あの子、誰だ?」
「……それは、その…」
バツが悪そうに言い淀む靖貴に、胸が痛む。
ハッキリ言ってくれよ。俺と別れたいって…彼女が出来たから俺は要らないんだって…。
……お前から言い辛いなら、俺から言ってやろうか。俺からお前に、最後のプレゼントだ。

「タカ、別れよう…」
俺の事を好きじゃないなら、無理しないで。似合いの彼女が居るんなら、俺に遠慮する事は無いんだ。
「さよなら」
堰を切ったように溢れ出した涙を隠すように、慌てて後ろを向いて玄関の扉に手を掛けた。と、強く腕を引かれた。

「ちゃんと言うけん、話聞いて!」
必死に俺の腕を掴んでくるから、家の中へ逃げる事も出来ない。
「あの子はバイト先の人なんよ!さっきはバイト終わった後にちょっと用事に付き合ってもろてただけやから!」
「……バイト…?」
アルバイトをしているなんて、そんなの知らない。
「そや。これ買いたくて、まぁちゃんに内緒でバイトしよったんよ」
そう言って靖貴が差し出してきたのは、喫茶店で彼女が靖貴に渡していた小さな紙袋だった。
「それ、開けてみて?」
靖貴がとても優しく微笑むから、泣くのも忘れて封を開ける。

「腕、時計…」
包みの中には腕時計が入っていた。黒い革ベルトのシンプルな時計。これを一緒に買いに行ったと言う事なのだろうか?



「今日が何の日か、まぁちゃん覚えとる?」
「え…?」
「まぁちゃんが俺の恋人になってくれてから、今日でちょうど一ヶ月経ったんよ」
一ヶ月記念には、時計を送ろうと決めていた。すごく気に入った時計があったけれど、小遣いだけじゃ足りなくて…。そんな時、お店のお姉さんから提案されたのだ。
「この店でアルバイトしてくれるなら、アルバイト代として腕時計を譲ってあげるわよって。で、今日がバイト最終日でな、店閉めた後に喫茶店に連れて行かれてん」
そこでバイト料として、これを受け取った。それが真実。

「タカの馬鹿やろう…会えない間、すげえツラかったんだからな…」
ボスッと音を立てて靖貴の胸に顔を埋めると、懐かしささえ感じる靖貴の腕が身体を包んでくれた。
「ごめんね、まぁちゃん。愛しとおよ」
「俺も、愛してる…」



「まぁちゃんは、腕時計の意味知っとる?」
知ってるよ、そんなもん。知ってるから、涙が止まらないんだ。

ずっとずっと、一緒に時を刻みましょう。



★あとがき★
9月2日はサイト開設一ヶ月です!って事で、靖貴×正和の二人に一ヶ月記念を祝ってもらいました。
これからもPerfect Loversを暖かく見守って下さると嬉しいです。


2009/9/3




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