ずっと、いつまでも@


「ごめん、まぁちゃん。ちょお野暮用あって、暫く一緒に帰れんのよ。本当ごめん!」
突然、靖貴がそう言った。授業が終わり、いつものように一緒に帰ろうと思っていた俺に、へらへら笑いながら。
「野暮用って何だよ?」
「んー…ごめん、それは言えん…」
笑顔が消えて、本当に申し訳なさそうに謝るから、それ以上は言及できなかった。
「分かった…。土日は会えるんだろ?」
努めて明るく尋ねた俺に反ってきた台詞は、俺に言い知れない不安を植え付ける。
「ほんっとうに悪いんやけど、日曜の夕方までは無理や」
今まで、いつでも一緒に居たのに。恋人になるより前から、ずっと一緒に居たのに…。
「分かった…」
「後でメールするけんね。ほしたら俺、急いどるけん帰るわ」
バタバタと、本当に急いでいるらしい靖貴は走って学校を去っていった。
野暮用とは何なのだろうか。俺に言えないような事なのだろうか。
気になって仕方ないのに、それでも靖貴にウザがられる恐怖を思うと、無理に聞き出す事など出来やしないのだ。

結局、あの日メールは来なかった。翌朝靖貴は平謝りしていたけれど、俺の胸にはどんよりと靄が掛かっていく。靖貴の事を信じたいのに、こんな小さな事で不安になってしまうなんて。こんなに俺は弱い人間だったのかと、ますます気分は下降するばかりだった。

結局、ほとんど靖貴と話す機会も得られないまま週末を迎えてしまった。初めての、一人きりの週末。
「はぁ…気分転換に出掛けてこよ…」
一人きりの部屋は何だか寂しくて。いたたまれなくなった俺は、アテも無いままブラブラと街に出た。

(このゲーム、そういやタカのやつ欲しがってたな…)

(この店、二人で来た事ある。ケーキが美味かった)

街を歩いていても、気付けば靖貴の事ばかりが胸を過ぎって。心底俺は靖貴に惚れてるんだな、なんて思わず笑みが零れた。
しかし、すぐにその表情は凍り付いた。人混みの向こうには、靖貴に似た人影。隣りには、サラサラの長い髪をした可愛い女の子。靖貴に似たその男は、可愛い女の子と楽しそうに笑いながら喫茶店へと消えていった。
「……見間違い、だよ。野暮用あるって言ってたし…」
ザワザワと騒ぐ胸を押さえて、靖貴に似た人物の居る店に近付いてみる。
そんな事しなければ良かったのに。知らない方が幸せな事が、世の中には沢山あるのに。その時の俺は、そんな事を考える余裕も無かった…。

日が傾き夕焼けに染まる喫茶店の窓から見えたのは、そっくりさんでは無く正真正銘本物の靖貴だった。
向かい側に座る女の子が、小さな紙袋を靖貴に渡して。靖貴は、嬉しそうにそれを受け取った。
お似合いのカップル。そんな言葉がピッタリ合うような二人。小さく可愛い笑顔の女の子に、長身で男前な靖貴。微笑み見つめ合う二人は本物の恋人同士のようで、俺の方こそが邪魔者のように感じる。



他に好きな子が出来たのだろうか。それとも最初から、男の俺と付き合った事を後悔していたのだろうか…。
ちゃんと言ってくれれば良かったのに。野暮用だなんて言わずに素直に言ってくれれば、ちゃんと俺は身を引いてやったのに…。
「……っ…」
ジーンズに次々と小さな染みが浮かんでは消えていく。涙と共に漏れる嗚咽を堪える事など、出来なかった。





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