寂しさ以上、孤独未満


靖貴と恋人になってからも、親友だった頃と何も変わらないような関係が続いている。
それも仕方の無い事なのかもしれない。男同士の恋愛など世間からすれば異端なのだ、手を繋いで街を歩くことすら俺たちには無理なのだから。

「まぁちゃん、今から映画観に行かん?」
土曜日の昼下がり、いつものように少しだけ靖貴から離れるように歩いていた俺に、映画のチケットが差し出された。
「これ、俺が観たがってたやつ…?」
そのチケットは、以前二人でテレビを見ていた時、何気なく俺が見たいと呟いた映画のやつで。それを覚えていてくれた事に、自然と頬が緩んだ。
「もうすぐ上映やけん、はよう行こ」
上映時間までチェックしてくれているのか。些細な彼の行動一つに、自分は彼の恋人なのだと思い知らされた。

真っ暗な館内に、明るく光るスクリーン。映画の内容はよくある恋愛物で、恋人と観たい映画ランキングなんかで上位に上がっているやつだ。

話が進んでいき、スクリーンに街中で恋人とキスを交わす金髪美女が映し出された。男女の恋愛だったら、こんな風に堂々とキスが出来るのだろうか。日本の街中でキスは無理でも、手を繋いでデートをする事は出来るだろう。
少し寂しさを感じて、隣りに座る靖貴に顔を向けてみた。
「……っ…!」
すると、てっきり映画を観ているもんだと思っていた靖貴と、目が合ってしまった。
驚きと恥ずかしさから視線を逸らそうとした俺の顔に手が添えられて、まるで映画のワンシーンのように、ゆっくりと靖貴の顔が近付いてくる。

スクリーンでは、主演女優が相手役の男優と抱き合っていて、映画がクライマックス間近だという事を告げている。
周りの観客は、きっと映画に釘付けだろう。そんな中、俺たちは静かに唇を重ね合わせ、映画が終わるまで靖貴と手を繋いで過ごした。


普段は、親友だった頃と何一つ変わらない関係を築いている。男同士なのだから、それは仕方の無い事なのだ。
それでも、それを悲しいとは思わない。
どんなに険しい道だとしても、どんなに寂しいと感じても、靖貴と二人ならそれだけで幸せなのだから。



★あとがき★
正和には散々泣いて貰ったので、今回はほのぼの。
シリアス同様、甘い雰囲気も大好きです。


2009/8/25




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