全く頭が働かず呆然としていた靖貴は、バタンと派手に閉められた玄関の音で、ハッと意識を正常に戻した。
今、正和は何と言ったのだろう?泣きそうな顔で自分にキスしてきた正和は、何と言っていた…?
『……ごめんな、タカ。好きになっちまって…本当にごめん…』
「待ってぇや、まぁちゃん!!」
正和の言葉の意味を理解した靖貴は、衣服を整えると慌てて正和の後を追った。
何処や、まぁちゃん。何処に行ったん。
早く彼を見付けなければ…早く、早く…。
あちこちを駆けずり回り息が切れても、靖貴は走り続けた。早く見付けて自分の気持ちを伝えなければ、もう二度と正和と会えないような気がして、重くなった足を引き摺りながらも走り続けた。
「……まぁちゃん…」
靖貴の足が止まる。そこは公園の前だった。
正和と初めて会ったあの公園で、あの日と同じように蹲って泣いている正和が、そこに居た。
「……まぁちゃん、何泣きよん?」
ゆっくりと正和の前に腰を下ろした靖貴は、あの日と同じような台詞を口にした。
「まぁちゃん、泣かんでぇや…」
そして、あの日と違い正和の身体を抱き締めた。
「タカ、ごめん…気持ち悪いだろ…?ごめん…っ」
必死に身を捩り靖貴から身体を離そうともがく正和を更に強く抱き締める。
「気持ち悪いわけないやんか。俺こそ、ごめんな…まぁちゃん事、傷付けて…ほんと悪かった…」
「何でタカが謝るんだよ…悪いのは俺じゃねぇか」
親友だと思ってくれていたタカの気持ちを裏切ったのだからと、そう零して自嘲を浮かべる正和の表情はとても悲哀に満ちていて。ボロボロと涙が流れては靖貴のシャツを濡らしていった。
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