小説 | ナノ
クリスマスはサンタと一緒に 01


そもそも、だ。
クリスマスとはキリストの誕生日であって。決して恋人との関係性はないはずだ。それなのにどうしたことだ、今やすっかり恋人達の聖夜だの何だのと騒ぎ立てられて。
この風潮を広めたのがお菓子会社か電飾会社か旅行会社か、はたまた頭の幸せな一般人かは知らないけれど。俺は全力で抗議をしたい。


2年間付き合っていた彼女の浮気が発覚したのは1週間前のこと。いや、浮気が発覚という言い方は正確じゃないのかもしれない。何と言っても、俺の方が浮気相手だったのだから。
昼ドラもかくやとばかりの修羅場を散々繰り広げた結果、別れを告げられたのは昨日。クリスマスイブの前日、23日のこと。


「んー、ごめんねー?」

と謝りながらも悪びれた様子は欠片もなく、彼女は俺を魅了して止まなかった大きな目を向けた。

「恭也と話すの楽しいんだけど、なんかときめかないんだー」

茶色の髪をくるくると指に巻き付けながら無邪気に言う。手の中のコーヒーはとっくに冷めきっていて、もはや黒い水にしか見えないそれに視線を落とした。

「私のしてたこともバレちゃったワケだしー……恭也ならもっと良い人が見つかるよ。だから……ね。別れよ?」

彼女の声は相変わらずいつも通りだ、明るくて可愛らしい。でも今となってはそれさえも俺の心を揺さぶらないのは確かみたいで。ゆっくりと、一つだけ頷いた。

「良かったーっ、ありがとう!恭也にも早く良い人が見つかりますように!」

なんて、まるで語尾にハートマークが付きそうな勢いで感謝される。とっくに枯れきったと思っていた怒りと絶望が、また沸々と涌き出してきていることに驚いた。
思わず拳を握りしめて冷たいコーヒーを一気に口に流し込むと、重い苦味だけが残った。

クリスマスは恋人達の日。この風潮を広めたのがお菓子会社か電飾会社か旅行会社か、はたまた頭の幸せな一般人かは知らないけれど。もうこうなったら誰でも良い、俺は全力で抗議をしたい。
一人寂しくクリスマスを過ごすような独り身は、どうしたら良いですか。


「……で、これを一体どうするべきか」

俺の目の前にはクリスマスケーキ、ワンホール。彼女と食べようと思い、洋菓子店に予約していた物だ。せっかく予約していたし受け取らないのも勿体ない、と家まで持ち帰ったは良いものの。

「でっかいなー……」

そう、でかい。どう見ても一人で食べるにはでかい。クリスマスの切ない思い出を何日も一人で噛み締め続けろと言うのか。……拷問だ。

とりあえず誰か友達でも呼ぼう。一人はあまりにも辛すぎる。そうしてスマホを手に取ってアドレス帳を開き、大学で最も仲の良い友達の欄まで来たところで通話ボタンを押した。1回……2回……コール音が響く。5回……6回……ようやく出た。

「あ、もしもし猛?」

「……お掛けになった番号は、現在電話に出ることが出来ません……合図の音が鳴りましたら……」

「このリア充がっ!」

返ってきたのは友人の低い声じゃなく、機械的で無機質な女性の音声。つまりは留守番電話サービス。思わず叫びながらスマホをベッドに叩きつけた。

どうせあいつは俺とは違って、彼女とそれはもうアツい夜を過ごしてクリスマスを満喫しているに違いない。今すぐ爆発すれば良いのに。

などと嫉妬に駆られてゴロゴロとベッドの上を転がりまくっていると。ぴんぽーん、と場違いに軽いインターホンが響いた。

…やば、苦情でも来たか?

のそのそと起き上がって玄関へ向かい、確認もせずにドアを開けた。

その瞬間視界に飛び込むのは……サンタ。そう、どう見てもサンタクロース。あの赤い服が特徴的な。銀の髪と青い瞳をした美形は、にっこりと微笑む。

「どうも、世界サンタ協会日本支部から派遣されてきた者で」

「あ、人違いです」

相手が言い終わらないうちに素早くドアを閉める。ドアにもたれ掛かりながら少しの間考えてみた。
何だあれ。何なんだあれ。つい見とれちまう程のイケメンだったし、営業スマイル完璧だったし。……サンタ?ってことは、この季節限定の出張ホストみたいなもん……なのか?
それにしても部屋を間違えるとは、ホストとしては致命的だと言うしかない。下手したら仕事なくすぞ。頑張れ、あのサンタ。

なんて名も分からないホストに心の中で声援を送っていると。ぴんぽーん。もう一度、間の抜けた明るい音が響いた。そしてドンドンとドアをノックされる。

「それが人違いじゃないんですよ、星崎大学経済学部3年、平坂恭也さん!クリスマスイブ前日に彼女にフラれた貴方はあまりに不幸だと、世界サンタ協会が……」

やばい、これはやばい!このままじゃ俺の個人情報駄々漏れだ、人違いじゃないらしい。っつーか何で知っている。
恐る恐るドアを細く開けて様子を窺う。立っているのは、やっぱりあのイケメン。

「……何なの、あんた」

今の俺は明らかに怪訝な目付きをしているだろう。だがそいつはその綺麗な顔で満面の笑みを浮かべて。

「サンタです!」

そう、断言した。

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