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五月の上旬。
カエルの鳴き声ががやけに耳につくくらい騒がしい。
それが、ベルトルトがこの村に来て最初の印象だった。
「本当に田舎じゃない。買い物とかどうしようかしら」
「半年前にスーパーが出来たみたいだからそこを使えば良いだろ。ほら…あの、Kマークのスーパーだよ」
「こんなだだっ広い田舎で店らしい店が一件だけなんて…。不便で仕方ないわ。ねえ、ベルトルト」
「うん」
後部座席に座るベルトルトは風が吹き抜ける窓の外をただ呆然と眺めていた。
気のない返事に母親はため息を一つ吐くとベルトルトと話を続けることなく黙ってしまった。
ベルトルト・フーバーは常に受け身の人生だった。
何に対しても自分の意志と言うものが薄く、大概は人に任せ、人に合わせてなしてきた。
周りに流され、仲間外れにならないように同調して、自分なりの意見なんて表に出したことはない。
此度の転校も両親から聞いた時に彼は憤怒や呆れなどなく「わかった」としか言わなかった。
特別な友人や恋人がいない彼にとって転校なんてものは然程心を揺り動かす事ではない。
次の転校先でも目立たず、人に任せて生きていこうと、ただそれだけを思っていたのだ。
(ああ…鳴き声がうるさい…)
田んぼ道を車がどこまで走り抜けようとカエルの鳴き声が耳にまとわりついた。
『come back to me』
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