目が覚めるといつもと違う天井、匂い、布団。頭が冴えないが、ゆっくりと思い出した。そういえばクザンと言い合いして別れた後、スモーカーの部屋に来たんだったけ。起き上がって足を抱えて座った。涙が止まらない。クザンに会いたい、けれどもう二人で会っちゃいけない。気持ちが離れられないから。
そういえばスモーカーは、と辺りを見渡せばベッドの近くに置き手紙が置いてあった。今気づいたが服も着替えさせてもらっている。スモーカーの服だから大きくてずれてしまう。直しながら手紙を読むと、仕事は休む連絡をした、熱冷まシートを買っておかゆを冷蔵庫に置いてあるから食え、とのこと。
本当にスモーカーは優しいんだから。それなのに彼女ができないのは何故なんだろう。もし、スモーカーと付き合っていたらこんな苦しい醜い思いをすることもなかったんだろうか。
ああ、1人でいるとどうしても考えてしまう。早く、帰ってきて欲しい。
時計はまだ午前11時、なにもすることがない。
その時チャイムが部屋に鳴り響いた。スモーカーが帰ってきたの?足元がおぼつかないなか、玄関まで急ぐ。鍵を開けた時ふと思った。ちょっと待って、スモーカーなら鍵を開けて入ってくるはずなのに、わざわざチャイムを鳴らさないだろう。誰だろう?
ゆっくりとドアを開けばそこには不機嫌なクザンがいた。驚きすぎて声が出なかった。なんでどうしてここにいるの?別れたはずでしょ?ドアを閉めようとするとクザンがそれを阻止する。クザンに敵うわけないので、閉めるのをやめた。そして沈黙。
「なんで、ここに」
「お前の上司に聞いた。新しい男ってスモーカーのことなんだ」
「…そうなの。だから帰って?」
「嘘つくな、ヨシノ。泣きそうな顔でそんなの言われても信じれると思うのか?」
悔しい。わざわざここに来てくれて嬉しいだなんて、本当は思っている。どうすればいいの、戻るの?またあの後ろ姿しか見ないつもりなの?ドアの外に引っ張られて抱き締められたけれども、突き放した。力がいつものように出ない、風邪のせいだ。
「なんなの、お前」
「いやなの。もうクザンと一緒にいても辛いだけ。私は別の道へ行く。クザンと同じ道にはならない…!痛いよ、やめてよ」
「もう喋るな、聞きたくねェ」
落ち着く腕の中。荒々しいキスをされる。頭が動かない。どうして、こういうことをするの。どうでもいいんじゃないの。どうせ私はあなたの役立つ家政婦なんでしょ。なのに拒めない私がいる。
「この服、スモーカーのだろ」
「脱がさないで、」
「他の男の服なんて着るなよ。おれのものでいろよ」
思考が停止する。やはり私は所有物なのか、涙が止まった。もう涙は出さない、この人の前では。絶対弱さを見せない。
「ごめん、クザン。やっぱりだめ」
「え?」
「別れたでしょ、私達。戻るとか無理だよ。その手で色んな人抱いたんでしょ。触らないで、もう傷つけられたくない」
目を反らさずに言い切った。こんなクザンに抵抗するなんて、初めてである。二年間、付き合ってね。
既に傷つけられている心だけれども。
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