おれはどうしようもなく、ずるい男だ。
部屋で1人葉巻を吸っている夜9時頃。今日も電伝虫が鳴る。あいつからの電話だ。
もうあいつとの付き合いも三年目。愛しくて仕方ないが、あいつには愛してる男がいる。憎い男が、
『スモーカー、』
「ああ、また行っちまったか」
『…』
「毎回泣いてんだろ、お前は。もっと甘えろ馬鹿」
『ひっぐ、もう、私…』
あの男がヨシノを泣かせる。その度にこの電伝虫が鳴る。電伝虫も悲しそうに泣いていた。ああ、おれがヨシノの男なら泣かせたりしないのに。これを口に出したら今までの関係は終わりだ。おれに頼らなくなるだろう。それは嫌なんだ。葉巻の煙が天井に向かって染み込んでいく。
「…今から飲みに行くか?」
『けど、こんな顔じゃ、スモーカーの横にいたらスモーカーが恥ずかしくなるよ』
「そんなもん気にしねェよ。…仕方ねェな。ならおれの家来い、泊めてやるよ」
『本当…?顔がめちゃくちゃだけど、勘弁してね』
「元々だろうが。ほら、さっさと来い」
『馬鹿…十分後に行くね』
そんなこと思ったことはない。泣いている顔も笑っている顔も、全てが好きだというのに。ヨシノにとっちゃ、おれは親友だと前に言われた。おれはそんなこと、一回も思ったことはない。
全然思ってねェんだ。
泣いている傍にいれるだけ、あいつよりは勝っているつもりだ。弱った時に傍にいないあいつと別れろ、なんて言えない。
ただ言う勇気がない、ただのずるい男だ。
prev:next
←