ヨシノが図書室にいないので家へ先へ帰ったのと思い、自分も帰るとヨシノが暗い寝室で寝転がっていた。嗚咽が聞こえる。泣いているようだ。なにかあったのか、電気をつけるとヨシノがおれに飛び込んできた。
「スモーカー…」
「なにかあったのか?」
「………」
「まずおれの質問に答えろ。なにかあったのか?」
「なにも、ないよ」
腕の中で泣き続ける。恐らくアイツのことなんだろう。二年間見てきたおかげでヨシノのことは大体わかる。おれに言わないなんてまた癪だ。
「馬鹿、だったらなんで泣いてんだよ」
「…わからない…!もうわからないよ」
「ちょっと落ち着け」
段々と過呼吸になっていくヨシノの体。肩を持ってゆっくり深呼吸させる。痛々しい姿におれはどうすればいいのかわからなかった。まだアイツは何かしてくるのか?もうヨシノはおれと共にいると決めたのに。
ソファーに座らせ、冷蔵庫から水を取りだしてヨシノに飲ませた。大分落ち着いたようだ。おれも隣に座るが、沈黙が続く。灰皿に葉巻が溜まっていった。
その沈黙を破ったのはヨシノだった。
決心したように深呼吸して話し出す。
「ねえ、私のどこが好きなの?スモーカーはもっといい人がいると思うんだけど」
「…なに言ってんだ。お前を守りたいだけだ」
「照れるね、あはは…」
無理して笑うヨシノ。笑った顔が見たいのに、これは求めていない。それでも言葉を続ける。黙って話を聞いていた。
「好きって何なんだろうね。わからなくなってきちゃった。スモーカーのこと大事にしたいって思ってるのに、気を遣わせてばかりだし。なにやってるんだろ、」
「おれのこと嫌いになったか?」
「そんなことない!」
悔しさが胸に溢れる。おれが青キジよりも先に告白していればこうはならなかったのだろうか。青キジを愛したヨシノもいなかったのだろうか。後悔ばかり、してしまう。そばにいるのに遠く感じてしまう。肩を手繰りよせヨシノの温かさを感じた。
「なァ、こんなそばにいるのに遠く感じるのはおれだけか」
「…」
「付き合っているのに、寂しさを感じる」
「ごめん、ごめんね」
「謝るな、別に求めてねェ」
肩に頭を置いているヨシノだが震えているのがわかった。また泣いているのだろう。幸せにできねェのかおれは。唇を噛む。その顔が見られてなきゃいいが。
「…ヨシノ」
「なに?」
「抱いていいか」
細いヨシノの体を抱き締めてそう言った。このタイミングで言うのは可笑しいと思う。しかし、そうでもしないと、この気持ちは抑えきれない気がして。もっと大事にしてやりたいのに、気持ちが着いていかない。青キジのものになるくらいなら、おれにもヨシノを感じさせてくれ。
「あ、」
「悪ィ、そんな気分じゃないのもわかってる」
「ごめんね、不安にさせて。大丈夫だから」
ヨシノのほうから首に腕を回してキスをしてきた。自分からは絶対にしないのに、してくれたということは気を遣っているんだろう。顔が紅くて色っぽい。何も考えずに感じていたい。ベッドまでヨシノを運び、熱く、抱いた。
情事中もヨシノは泣いていて、切なさが込み上げたが1つになれたときはおれも泣きそうになってしまった。
恋愛は難しいな、隣で寝ているヨシノにそう呟いた。
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