最近は幸せを感じる日々である。スモーカーは大切にしてくれるし、私も役に立ちたくて家事全般を担当している。毎日ご飯がおいしいと言ってくれる。クザンと違う生活に充実感を得ていた。

ここ1週間はクザンがちょっかいをかけに来ないし、もう諦めてくれたと思ったが上司がきになることを私に呟いた。


「青雉大将が高熱で1週間寝込んでるらしいぞ。別れたせいじゃないのか?噂ではお前の名前を呼び続けているらしいぞ。他の女は触れるなとか言ってたとか」

「えっ、本当ですか…」

「知らないが、1週間休んでいるのは本当だ」


あれからクザンはずっと体調を崩してたというのか。胸が苦しくて仕方がない。お見舞いに行くべきなのか、行かないべきか。複雑である。スモーカーにも悪い気がするし、よくないと思う。けれど私の良心が行けと囁いていた。

そんな高熱ならば、なにも起きないし、様子見るだけ、と。服も取りに行きたい。上司は早退してもいいから行ってやれと言われたのでスポーツ飲料水と熱冷まシートを買って向かう。

久しぶりにこの家に来たが、懐かしさでいっぱいである。だからといって、気持ちが戻るわけではない。私はスモーカーの元へ戻るだけだ。

勇気を振り絞ってチャイムを押す、が返事はない。ゆっくりドアを開くと驚愕した。部屋は散らかっており変な臭いまでする。これはひどい。女の子は何をしているの?片付けもできない子を引っかけるなんてクザンは馬鹿ね、と思いながら台所から片付けていく。

リビングはもっと酷かった。お酒の缶が転がっているし、おつまみの袋も置きっぱなし。空のビールと焼酎の瓶も大量にある。これはいつから置きっぱなしなのだろつ。全部、捨てて掃除機をかけた。多分クザンは寝室にいるだろうから大丈夫なはず。その中でリビングの机だけは綺麗だった。机の上には私が2年記念日の時に作ったアルバムと手紙しか置いてなかったからだ。

アルバムはクザンと仲良しだった頃、二人で笑顔で写っている写真のページが開かれていた。1人で飲みながらこれを見ていたのかな、と思うと涙が出てきそうだ。今更この気持ちは厄介である。クザンは裏切りながらも私のことを愛してくれていたんだと。


「ふう、だめだめ。早く私の用意をしよ」


下着や服をまとめていると段々と寂しくなってきた。この家にも思い出はたくさんある。タンスが空になっていく。思い出が甦って涙が流れてしまったので、タオルで顔を拭いてから寝室に向かった。

ノックを二回したが、返事はない。


「入るよ…?」


恐る恐る入ればクザンは汗をかきながら唸っていた。うなされているし、本当に苦しそうである。私も前風邪になったし、スモーカーにしてもらったことをしよう。

とりあえず服を脱がさなければ。しかしクザンは重い。上の服を脱がしきるまでこちらも汗が出てきた。体を拭き取り、最後にクザンの顔を拭き熱冷まシートを額に貼った。


「ヨシノ、」

「…ッ」

「ヨシノ…会いたい、」


噂は本当であったのか。ずっと私の名前を呼び続ける。堪えていたが、ぷちんと糸が切れた瞬間涙がわっと溢れ出した。いつからすれ違ってしまったのだろう。声を出して泣いていたらクザンが目を覚ましてこちらを見てきた。


「ヨシノ…?夢じゃないよ、な?」

「クザン、私だよ」

「なんでここに、いるんだよ…スモーカーのところへ行ったんじゃないのか」

「クザンが私の名前呼び続けてるって言うから、しかも女の子は触れさせてないって噂に聞いたから!来ただけだよ」

「…なァ、ヨシノ」

「なに?」

「いつからこんなにすれ違ったんだろな。…おれのせいだ。本当に今まで悪かった。しつこいけどおれ変わる、変わるから戻ってきてくれ…!おれにはヨシノしか愛せねェんだ」


頭を下げるクザンに私は動揺していた。今までこんなことはなかったからだ。喧嘩しても私がずっと謝ってばかりで。離れられるのが怖かったから。でも今は状況は変わっていた。


「遅いよ、クザン」

「わかってる、わかってるよ。もうスモーカーのものなんだろ?それでもおれはヨシノしか見えない。ずっと愛し続けるから」

「そんなこと言わないで!私はもう…!」

「おれにも気持ちは残ってんだろ?けど手は出さない。スモーカーに失礼だからな。ヨシノがまた好きになってくれるまで待つよ」


そういって笑うクザンは痛々しくて見てられなかった。もうどうすればいいのか、どちらを選んでも傷つけてばかりで。自分の決心が簡単に揺らいでしまうのも嫌だった。


「ヨシノ、おれはお前のことが、「もう言わないで…これ以上気持ちを揺らがさないでよ…」」


ベッドの下で座り込む私。どれだけ泣けば幸せになれるのだろうか。下を向いて泣いているとクザンが隣に座ってきた。そして頭を撫でてくれる。


「泣くなよ。おれだって泣いちゃうぞ」

「…ッ、なにいってるの」

「ほらほら、綺麗な顔が台無しだ」


長い指で涙を受け止めてくれるクザン。懐かしくて切なかった。昔に戻ったみたいで。落ち込んでいたら笑わせてくれるんだ。裏切られたのに、ひどいことされたのに、それも流れていく。


「大丈夫、おれはお前がどっちを選んでもいいの。ヨシノが幸せだったらね」

「…いつからそんな考えができるようになったの?」

「あらら、ひどいこと言うじゃないの。ヨシノがおれから離れてからかな。ほら、もう今日は帰りなさいよ」

「ごめん、ごめんね。」

「なんでおれに謝るのよ。おれの方こそもっと詫びないといけないのに」

「ありがとう」


しんどいのに笑顔を見せてくるクザンが見れなくて出ていってしまった。こんな気持ちのままいたくない。早くスモーカーに会って、心をスモーカーでいっぱいにしたい。

「…ッ、もう嫌だ」


恋愛に囚われている自分が。



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