毎日、泣いている。帰ってその度にスモーカーが慰めてくれるのだ。何も言わずに頭を撫でてくれる。クザン、何を考えているの。毎日、毎日仕事が終わる頃に待っていて、帰り道ずっと話しかけられる。
「ヨシノ〜、飯作りにおいでよ」
「…ごめんなさい。」
「えー、ケチ。お前の作る飯うめェんだよ」
そういえばクザンは何も手料理作れなかったっけ。今どうしてるのかな。部屋も散らかってるだろうな、と思いながらも女の子がたくさんいるはずなので、私はいらない。会いに来られる度に心配して、好きなんだと思わされる。母性本能なのかもしれない。それだったらいいのだけれど、別れたのにこんなに会いに来られて、嬉しいと感じて辛くなってしまう。一体いつになったら解放されるのだろう。
なんだかんだ送ってくれる、クザン。スモーカーの家へ帰るというのに、ずっと来るのだ。ドアを閉める瞬間まで見送っていた。ちらりと見たクザンの顔は歪んでいて。独占欲強いクザンだから、早く飽きてほしい。いくらでも私の代わりはいるだろうに。
「ふっ…う…!」
玄関で座り込んで涙が止まらないのは毎日。帰ってきたスモーカーに慰めてもらうのだ。いつも申し訳ないので家事全般は私がすることにしている。健康に悪そうなものばかり食べているので、ちょうどいい。けれどそろそろ家に服と下着取りに帰りたい。一枚で頑張って回していたけれど、疲れてきたのだ。家にいないチャンスを狙うとしよう。
そしてスモーカーと共に夕食を食べている時。
「あいつ、毎日来んのか?」
「うん、毎日だね。休みの日は知らないけど」
「しつこいな…おれと一緒に帰るか?」
「え、けど、スモーカーしんどくないの…?」
「すぐ終わらせて迎えにいくようにする。図書室かどっかで待っててくれ」
「ごめんね、ありがとう。本読んで待ってるね」
スモーカーは優しい。彼が恋人だったら、本当に幸せだろうに、気を遣ってソファーで寝てくれているし、そろそろベッドを渡さなければ。じっと顔を見つめてしまい、目が合った。すぐに反らしたが意識してしまって気まずい。
「なんだ、ヨシノ」
「その、いつもソファーで寝てるからさ、ベッドどうかな、って」
「お前はどこで寝るんだよ」
「…ソファー?」
「寝かせられるかよ、いい」
「でも…!じゃあ、一緒に寝る?」
「お前なァ」
「大丈夫、端で寝るようにするから」
いつもいつも悪いんだもの。夕食の片付けが終わり風呂へ入った。そろそろ自分のシャンプーも使い果たす。こんなに泊まると思っていなかったからシャンプーやリンスは小さいものを買っていたのだ。ベッドへ入り、二人ともぎこちない。
緊張がはしった。こんな男の人と寝ることはクザン以外にしたことがないから。どうしよう、心臓の音が聞こえてないといいけれど。仰向けで寝ていて、スモーカーは背を向けている。こんなドキドキ久しぶりな気がする。届かないで、眠れ、スモーカー。
「なぁ」
心臓が跳ねる。顔が赤くなっているだろう、よかった暗闇で。何故か感じる罪悪感。どこからくるのかもわかっている。誤魔化すように明るく振る舞った。
「はーい?」
「…」
「ん?」
「黙ってろ」
スモーカーに引き寄せられ、腕のなかに収まる。上半身裸でいつも寝ているので、筋肉がおもむろに顔に当たる。一体どうしたというのだ。心臓が速い。
なんで、スモーカーも心臓が速いの?もしかして、なんて考えて頭を振った。そんなはずはない。スモーカーは同僚で親友だもの。向こうもそう思っている、はずなのに。何故胸が高鳴ってしまうのだろう。
「ヨシノ、もう泣くなよ」
「スモーカー…」
「お前が泣いてるところはあまり見たくねェ」
「…ありがと」
スモーカーを好きになれたら幸せになれるかもしれない、だけど想いを断ちきれない自分に嫌気が差した。
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