2


「リンゴちゃーん、迎えにきたよー…ってなにしてんの?」

「ク、クザンさん!」


いきなり扉を開けて入ってきたのはいつも通りだるそうなクザンさん
海兵の格好の上にエプロンと三角きんをして、どこか清掃員のおばちゃんみたいであった
こんな格好、恥ずかしい…!


「何の用じゃァ」

「もう昼時でしょ。昼ごはん食べに行こうと思ってなァ…サカズキ、リンゴちゃんを苛めてないだろうね」

「何もしとらん」

「クザンさ、ん!ちょっと待って下さい、もう少しで終わります…!」



クザンは辺りを見渡してみると、この部屋が新しいみたいに綺麗であった
ここまでよく掃除しちゃったなァ…


「リンゴちゃんって意外にやるね。オレこんな真似できねェや」

「あ、ありがとうごさいます」

「それ終わったらさっさと飯を食べに行け。」

「もう終わりました…!あの、サカズキさんも一緒に、えっと…お昼食べませんか!」



雑巾を手に持ちながら、サカズキさんを誘ってみた
ああああ、だめだ、鼻で笑われて終わりか、それとま痛切な言葉を浴びせられるんじゃ…


「…仕事がまだ残っとるけえ、先行っちょれ」

「え、ちょっと。いつのまに名前で呼んでんの」

「あ、はい!」

「無視か。おじさん泣いちゃうよ」

「何か問題でも…?」

「んー、ないけどさァ」


サカズキさんが優しくなった…!
嬉しすぎて笑みが溢れて仕方がない
はっ!調子に乗りすぎたらまた言われる
ピリッと顔を変えて失礼します、と一礼した

その様子を見てたクザンは何故か寂しさがあった
なんだかしっかりしちゃって、あの泣き虫なリンゴちゃんもよかったのになァ。
おれにだけ甘えてきてたリンゴちゃん、カムバック。


「ククザンさん。い、行きましょう!」

「…どもる癖直そうか」

「えあ!…無理です」


給仕室へ掃除道具を直した後そのまま食堂までクザンさんに連れて行ってもらえたが、目線が痛々しかった
あれが噂の異世界人、などとひそひそ噂話が聞こえる
海兵になったのかよ!暴れねェのかな、なんて色々辛いものがある
青キジ大将が監視か、まで。


こんなに目立つのは人生初めての経験だ

とりあえず唐揚げ定食を頼み、クザンさんの横の席へ座る
海兵はここの食堂は無料らしい
なんて便利なところなんだろう

ふと思わず溜め息が出てしまうところで、止めればクザンさんが同じ唐揚げ定食を食べながら、こちらをじっと見ていた


「ななんですか!」

「ん?泣くかなァって思って」

「な泣かないですよ、まだ、」

「そ。それならいいや。」


視線で殺される気がしたが、我慢。
いつもみられることなんて少なかったのに
いつでもあたしは一歩ひいていたから
それをやめさせるための訓練なのかな…


「リンゴー!元気でやっとるかー!?」


後ろから衝撃があり、食べてたものが詰まってゴホゴホと咳をしてしまった
誰だ、こんなことする人は…!!
後ろを振り向けばガープさんの姿があった



「サカズキとはうまくやってるかのう?」

「あ、はい。優しいです」

「そんなこと言うのリンゴちゃんしかいねェな」

「な、なんでですか?厳しいけど、優しいのにな」

「ぶわっはっは!だそうじゃ!サカズキ」

「…」

「きゃああ!ササカズキさん!聞いてましたよね…すいません!知ったような口聞いてすいません!」


ガープさんの隣にはいつの間にかサカズキさんがサバ定食をお盆に乗せて立っていた
絶対怒られる…!出過ぎたマネだ。
胸がばくばくとうるさい、顔を見るのが怖い
恐る恐るサカズキさんの顔見れば、無表情であったがあまり怒っているように見えなかった


「うるさいのう。ガープさん、黙らせろ」

「照れとんのか!おもしろい!ぶわっはっは!」

「え、あの、怒ってませんか…?」

「何故怒る必要があるんじゃァ?怒られたいんか?」


やっぱり優しい人だ
思わず笑みが溢れてしまう
それを見て気に食わなさそうなのがクザンさんであった


「!いいいえ!よかったら、隣来ませんか…?いや、嫌ならいいんですけど!すいません!」

「えーおれリンゴちゃんと二人がいいなァ」

「え!」


無言で隣へ座ってくれるサカズキさん。
嬉しくてついついたくさん話しかけてしまった
ガープさんはクザンさんの隣へ座っている



「ササカズキさんはサバ好きなんですか…?」

「今日はそんな気分じゃけえ、選んだんじゃ」

「そうなんですか。あ、あたしは魚好きですよ。ご飯とよくあって好きです」

「そうか」

「他に好きなものはなんですか…?」

「特にないが、和食かのう。」

「和食だとちらし寿司なんかおいしいですよね!」


そんなリンゴを見てクザンは溜め息をつく
お気に入りの子が取られて、その上楽しそうに笑いながら食事をとっている姿は何とも言えない。
せっかく話せる機会なのにサカズキにまた取られてしまった
隣なのにリンゴちゃんはおれに背を向けている



「なんじゃ、リンゴが取られてヤキモチ妬いてるんか!ぶわっはっは!」

「ガープさん、笑えねェよ。ヤキモチなんか妬いちゃいないさ、おれの年考えてよ」

「自分の顔見てから物言え、青二才が!」

「そんな顔してんの、おれ」

「まるで母親を取られた子どもみたいな顔しとるぞ!」

「わお」


顔に出ないはずなのに珍しく出たのか。
こんな感情は久しいものだ
隣のリンゴちゃんを見つめていると気がついたのか、こちらを見てきた


「クザンさん、何かありました…?」

「何もねェよ」

「な、なら何故そんな悲しそうな顔するんですか」

「え?」

「何かあったんですか?」

「悲しそうな顔してる?おれ」

「あ!あたしには見えたんです、すいません」

「何も変わらんじゃろ」

「気のせいですか!いらない気遣いすいません!」



健気なリンゴちゃんに心打たれる
この子は本当に、


「犬だな」

「い犬…?赤犬さんですか…?」

「何言ってるんじゃ、青二才は!」

「んー、リンゴちゃんが犬」

「意味がわからん。」

「ええ!あたしが犬?」



尻尾があるなら振ってるだろうに。
すぐになついて、少し優しくされたら嬉しそうに笑って、悲しければ泣いて。
感情豊かな子だ
こんな何も汚れていない子を海軍に置いてていいのか?
人に手をかけることなんて教えたくない
ただ純粋に側に置くだけでいい

なんて考えにふけっていたら、リンゴちゃんが心配そうな顔つきでこちらを覗いていた
心臓に悪ィことしてくれるじゃないの。


「ほんとに、大丈夫ですか」

「ああ、リンゴちゃんはそのままでいてくれよ」

「?」


一方思い出すようにガープさんが掌をぽん、っと叩いて言った


「あ、リンゴ!昼から訓練するぞ!自分の身は自分の身で守らねばならんからのう!いいじゃろ!サカズキ!」

「ほどほどにな」

「ええ!リンゴちゃん鍛えなくてもいいじゃない。おれの教官にするからさ」

「それでも海兵じゃ!こいつは!鍛えなければならん!そうでないと周りの海兵にナメられる!あの力も知らねばならん!」

「けど、この子にそんな力教えてどうなる。人を殺める力なんかいらねェ。」

「かァー!お前はわかっとらん!見ろ、周りの海兵達を!」



ガープさんとクザンさんの言い合いは食堂の海兵たちの目を惹き付けるのには十分すぎた
周りの海兵達はあたしに対して不信感を抱いているのだ

何故ならば異世界人で客用の一室を貰い、その上いきなり大将の側に控えているのだ
いくら頑張っても一握りしかなれない人材にいきなり現れてなっている。弱々しい海兵であるにもかかわらず。

それをリンゴは知らないため、何故そのような目で見られるのかわからない。


「…ならリンゴちゃんを汚さないでくれ」

「生意気な事いいよって!リンゴが人を殺めると思っとるんか!」

「あの、あたしそんな力いらないです…殺めるなんて、絶対しません。ただこの世界に生きれるだけの力をください、」


言い合いをしている二人に間に入って思いを伝えた
果たして伝わったのかはわからないが、どんなことをするのだろう


「…朝はわしの元へ来い」

「サカズキさん…!はははい!絶対行きます!」

「じゃあおれは夜ね」

「え、夜まで仕事ですか…!」

「…やっぱいいや。リンゴちゃん、本当に気をつけてね」

「わしの修業はきついぞう!!」


あ、唐揚げ冷めてた

prev next

[back]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -