学校の帰り道、リクオを挟んでつらら、青田坊と三人並んで歩いていた。
すると、つららが急に歩を進めていた足を止めてリクオを呼んだ。

「どうした、つらら?」
「リクオ様、私なんだか暑さでやられちゃったみたいです…」
「あっ今日は天気が良かったから…つらら大丈夫か!?」

くらりと目眩を感じたつららは側にあった塀に手をついた。
天気が良かった夕空を見上げていたリクオは倒れそうになるつららの姿に驚き駆け寄った。

「近くに公園があるからそこで少し休もう」
「若!雪女の弱音言を聞き入れる必要なんかありませんよ!」
「でもつららが辛そうにしてるんだから休ませなきゃ!」
「うっ…」

つららの腰を抱いて支えたリクオに青田坊は大声で怒鳴った。
リクオはそれに反発すると怒られたと思ったのか青田坊は一つ呻き声を漏らした。
そんな二人に申し訳なくなったつららは、すみませんと謝るとリクオは笑って気にするな。と囁いた。





「ほらつらら、ここ座って。ボク飲み物買ってくるから」
「申し訳ありません…リクオ様」
「だから、気にするなって言っただろう」

つららを公園の日陰ができているベンチに座らせたリクオは自販機に向かうため踵を返した。
つららは心底落ち込んだようにまた謝るとリクオは膨れたような顔をして自販機へと走って行った。

「えっと、…ねぇ青田坊、つららって何飲めるかな?」
「冷たいもんなら何でもいいじゃないですか」
「……怒ってる?」

自販機の中身を眺めながら腕を組んで悩むリクオは黙って付いて来た青田坊に問いかけた。
そんな問いかけに青田坊は拗ねたような声で答える。
リクオはハハっと苦笑いを浮かべ後ろへ振り返った。

「若は、雪女に甘すぎです」
「ボクが?そんな事ないよ」

突然青田坊から飛び出た言葉にリクオは首を傾げた。
そしてリクオはないないと手を左右に振って笑ってみせた。
そんなリクオを凝視する青田坊は数回首を振ってまた口を開いた。

「いいえ。この前も天気の良い日に買い物に行こうとした雪女を止めて代わりに若自身がお行きになったでしょう」
「だって、あんな快晴の日ににつららを出したら間違いなく倒れると思ったからだよ」

「その前は訳もなくアイツにアイスを買ってあげてました」
「つららが食べたそうだなって思って」
「若、それが甘やかしていると…」
「だから、してないってば」

けろりとした顔で答えるリクオに青田坊は深くため息を漏らした。
この主は自分の言っている事をまるで理解していない。
いま答えてる言葉こそ甘やかしていると言うのに主はそれを少しも気づいていない。

「…とにかく、あまりアイツを甘やかさないでくださいよ。雪女は若の側近なんですから」

念を押すように語尾を強くして言う青田坊にリクオは何だかわからないまま頷いた。

「…わかったよ。…とりあえず青田坊」
「なんです、若?」
「つららが何飲むか教えて」
「……」

そしてまた飲み物の事に頭を悩ますリクオに青田坊は心の底からつららを羨ましく思った。
側近、側近にあらず。青田坊は人知れずそうぼやき、そしてベンチで呑気に休んでいるであろうつららを一発だけ殴りたいと青田坊は拳を震わせる。

「うーん、ボク、そんなにつららに甘いのかな?」

自販機のボタンを一つ押したリクオは後ろでウガー!と嘆いている青田坊の声を耳に入れながら、不思議そうにそう呟いたのであった。


弱愛された猫
 (俺だって甘えたいわ!バカやろー!)


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