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「リクオ様、大丈夫ですか?」
「あぁ…つらら?」

開いていた襖からひょっこりと覗いてきたのは雪女のつららだった。
心配そうに自分を見る雪女にリクオは今の自分の姿を見た。
掛け布団を首まで被り、頭には冷たい大きな氷が入った袋、体がだるくて頭が重い。(何で重いのか分かっているけど)
まあ簡単に言えば、今自分は風邪を引いて寝込んでいるのだった。

「お体の方はだいぶ良くなりましたか?」
「うん、朝よりは楽になったけど…ねぇつらら、やっぱりこの氷どけてくれない?」
「なりません!若は風邪を引かれているのですから」

ピシャリと言い切られてしまいリクオははぁとため息を吐いた。
心配してくれるのは嬉しいけど、やっぱり重い。

「あっ…そういえば、さっき家長が来まして」
「えっカナちゃんが?」
「えぇ、これを渡して欲しいとのことで…」

どこか不機嫌な雪女はカナが訪ねてきたこと言うとリクオは驚いて重い瞼を少しだけ開かせた。
雪女はそっぽを向けながら背中で隠していた物をそっとリクオの枕元へ置いた。
それは小さな正方形の形をした箱で可愛らしいラッピングと共にリボンがつけられていた。

「つらら、これは?」
「今日はバレンタインですから、きっとチョコレートですよ」

ぶっきらぼうな声の雪女にリクオはあぁ、と頷いて納得した。
今日は確か2月14日、俗に言うバレンタインデーだ。
風邪を引いていたからすっかりと忘れていた。

「カナちゃん、わざわざ持ってきてくれたんだ。優しいなぁ」
「そうですね。リクオ様がお休みしてたのに学校終わってからわざわざ来るなんて、したたかですね」

ふっと笑ってみせるリクオにますます不機嫌になる雪女は棘のある喋り方をした。
そんな雪女にリクオは不思議そうに見上げた。

「つらら何怒ってるの?」
「別に私は怒ってなどいません」
「そんな顔で言われても説得力ないよ」

ツンとした態度の雪女に笑うとリクオはゆっくりと体を起こした。
雪女は慌ててリクオの体を支える。

「つららのは?」
「えっ?」
「つららはボクにチョコはくれないの?」

自分の胸に添えられた雪女の手を優しく握る。
不機嫌だった雪女は途端に頬を染めるとあわあわとし始めた。

「わっ私は…リクオ様が風邪引いてしまいましたし…」
「…ないの?」

残念そうに眉を下げるリクオに違います!と雪女は手を左右に振った。

「あります、けど…」
「つららのチョコ、欲しいな」
「はっ…う…」

もじもじと白い着物の袖をさすり合わせる雪女にリクオは笑み見せながら催促した。
雪女は暫く唸った後、観念したかのように背中からまたひとつ箱を取り出した。
カナとは違いハート型でピンク色の箱だった。

「あの、やっぱり可愛らしすぎました…ね」
「なに、もしかして見た目のこと気にしてたの?」

上目遣いでリクオを見た雪女は悲しそうに呟いた。
リクオは雪女の言葉に可笑しくて少し吹き出す。
側に置かれた箱を持つとにっこりとリクオは笑った。

「それもありましたけど、私よりやっぱり家長から貰った方がリクオ様だって…」
「つららからのチョコの方が嬉しいに決まってるだろ」

ふてくされた顔をしたリクオは雪女にそう言った。
そりゃあカナちゃんからのチョコだって嬉しいけど。と人の良いリクオは付け加えた。
雪女はぽけっとした表情をするとくすりと微笑んだ。

「ありがとうございますリクオ様」
「それはこっちの台詞だろ。ありがとうつらら」

二人して笑い合うと、リクオは持っていたつららのチョコの箱を開けた。
中身はトリュフで深い底なのか山のように詰まれていた。

「あは、つらら入れすぎだよこれ」
「愛をいっぱい詰めましたから!」

得意げに胸を張る雪女にリクオは詰めすぎだから。と笑う。
そしてひとつだこチョコをつまみ出す。

「あっ、風邪を引いているのにチョコは」
「治ってきたし大丈夫だよ。それに、ボクは今甘いのが食べたい気分だし」

口に入れようとしたチョコを雪女は慌てて止めようとしたがリクオはそれを聞き流してチョコを口に入れた。
ジワッと広がる甘いチョコの味にリクオは嬉しそうに笑った。

「うん、つららの味だ」
「私の味、ですか?」
「凄く甘くて、でもたまに苦い感じ」

つららの顔をじっと見つめてリクオはにっこりと笑った。
私、苦くないです!と雪女はとっさに反射的に否定するとリクオはまた一層笑みを深くした。

「そういうとこが苦いんだよ」
「うっ」
「ほら、つららボクに食べさせてよ」

あーんと口を開いたリクオに顔を真っ赤にしてむっむむ無理ですと後ずさった。

「ボク、一応病人だろ」
「うっ…」
「ほら、」

またあーんと口を開くリクオに雪女はひとつチョコをつまむと恥ずかしそうにおそるおそるリクオの元へ運んだ。

「んっ、美味しい。ありがとうつらら」
「喜んで頂けたなら良かったです」
「じゃあ今度はつららを貰おうかな」
「……はい?」

聞き逃しそうな一言に雪女は笑ったまま首を傾げた。

「だから、つららをちょうだい」
「いえ、あの、言ってる意味が…」
「そのまんまの意味だよ。」
「ちっちょっとまっまま待ってください!わっ若!」

笑顔のままのリクオにずるずると布団に引き込まれてしまう雪女はバタバタと暴れ出すがリクオはなんのこともなく布団を雪女と一緒に被った。

「待った無し。ボク病人なんだからちゃんと労ってよ」
「それとこれとは話が……りっ、リクオさまぁぁ!」

そしてその後、雪女の涙混じりの叫び声が響いたとか―。


happy valentine

 (チョコと君を頂きます)





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