「好きだ」



息をするように囁かれたその言葉は、確実に氷麗の耳に吸い込まれ、脳へと響き渡った。彼の表情が見たくて堪らなくなったが、きつく抱きしめられた態勢で叶うことはなかった。けれどそれは彼も自分の表情が見えないことの証明であり、氷麗は異常なほどに紅く染まった自分の頬を見られることがないと安堵した。



「どうしたのですか、若」



リクオの背中に腕を回しながら氷麗は問い掛ける。夜更けの静寂は緊迫感を醸し出しているようだった。氷麗は穏やかさを装った声を出したがリクオはそれに返答せずただただ氷麗を抱きしめて離さない。眉を下げ、氷麗は困ってしまった。聞いても答えてくれないというのは、どう対応すればいいものなのだろうか。

「………そんなに力強くこんなことをしなくても、私はここに居ますよ」

今だに力の入ったリクオの腕を氷麗は撫でる。

「私もリクオ様を心からお慕いしております。死ぬまで傍にいてお守りすると、盃を交わした時に誓いました。ですから大丈夫。ご安心なさってくださいな」



氷麗がここまで言っても、リクオは抱きしめることを止めない。けれど拘束は緩くなったお陰で、氷麗の圧迫されていた肺に正常に空気が出入りする。だが緩まったとはいえリクオの表情を見ることはまだ叶わない。どんな顔をしているのか、氷麗は気になってしょうがなかった。思い詰めているのか。悩み事でもあるのか。悲観に浸っているのか。これらの中のどれかなのかまたは違うのか、抱きしめられているだけではいずれも解らない。自分は何をすればいいのか。何かしら話をすればいいのか。こうしてリクオに体を黙って預けていればいいのか。巻き上がる思考の渦が、氷麗の脳を支配した。



「なあ、つらら」



そんな氷麗の脳に、またリクオの声が響く。待ち望んだはずのその声はやはり低い。

「お前は俺を置いて何処にも行くなよ」

「ええ」

「絶対だ」

「解っています」

「つらら…」

リクオはまた氷麗の名を呼び、その体を深く埋めた。氷麗には彼の名を呼ぶ行為が、必死に自分を彼に縛り付ける様に感じた。ああ、自分はつくづく彼から逃げられないのだな、と思いながら氷麗もその腕でしっかりとリクオを抱きしめた。ああ、残酷なお人。まだ物足りないというの?こんな事をしなくても自分の体も魂も心も、既に全て貴方に釘付けになっているというのに。これ以上、どうしろというのかしら。

自分もう十分過ぎるぐらい、貴方に恋い焦がれているというのに。



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