闇の君。 | ナノ
死なす訳には



燕に向かって真っ直ぐ刀を構えた夜宵。燕もニヤリと笑って自分の腰に下がっていた刀を抜いた。

今にも闘いが始まりそうな雰囲気が漂い、緊張が走っている、そんな空気を壊した者がいた。



「止めろ、夜宵!」


その場に響いた声に、夜宵は自分の耳を疑った。何故なら、その声の持ち主には一度別れを告げていたのだから。
視線を巡らせればそこに居たのは、銀と黒の髪を宙に踊らせたリクオだった。相当急いで来たのだろう、息が少し切れているようだ。


「何故此処に来たのだ、リクオ」

小さく呟いた声は、リクオには届いていない。代わりに対峙している燕に届いた。


「ああ、奴良リクオか!…ククク、こりゃあ上玉が勢揃いだな」

舌なめずりした燕は、一気に夜宵に切り掛かる。寸でのところで意識を燕に戻した夜宵だったが、重たい一撃に唸る。
それでも弾き返し、刀を水平に振るう。それを避けた燕が、後ろから夜宵の足に傷を作る。
夜宵はそこに崩れ落ちて、痛さに唸る。それを見て、リクオは夜宵に駆け寄った。
燕の笑い声が響く。


「夜宵、大丈夫か」
「何故来たのだ。お前が来る場所ではないのに」
「んなこと言ってる場合じゃねぇだろ!」
「今からでも遅くない。帰れ」
「嫌だ。帰るんだったらお前も一緒に連れて帰る」
「何を言って…、!!」


夜宵はリクオの後ろを見て絶句する。何故なら、燕が音もなく迫って居たから。

リクオを死なす訳にはいかない。

そう思った夜宵は咄嗟にリクオを横に押した。

燕の刀は夜宵を貫く。それをみたリクオは目を見開いた。


「フハハッ!闇の君が庇ったのか。命拾いしたなぁ、奴良リクオ!」
「夜宵!!」

素早く夜宵を抱き上げて畏れを発動したリクオ。刀はどうやら彼女の腹を突き刺したらしい。


「夜宵!おい、夜宵!」
「騒ぐな、聞こえておる、リクオ」

夜宵は、絶え絶えだが反応を示した。瞼が下がりかけていて、目は虚ろだ。リクオは、夜宵に死ぬな、と言って抱きしめる。

「ははっ。死にはせん。少し寝るだけだ。その間奴を、頼む」

微笑んだ夜宵は、瞼を下ろした。本当に死なないのだろうか。心配だった。しかし、夜宵の言葉を信じるしかない。しかも、敵を放っておくわけにもいかなかった。


闘いの被害に遭わないであろう場所に夜宵を下ろして、リクオは立ち上がる。


「燕。テメェは此処で、たたっ斬るッ!」


リクオが抜いた白刃は、彼の覚悟を表すかのように、白く光った。


110907*up
リクオを守りたい闇の君。さてさて、闇の君の運命は!?


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