失踪と謎 やはりリクオの腕の中は温かいと思った。このままその中にいたいと思うくらい、抱きしめ返したいと思ってしまうくらい、心地がよかった。 だけど、それは私の信念に反するから。 「闇は勝手なのだ、リクオ。」 卑怯な私を赦してくれ。 そう心の中で呟く。彼の肩をぽんぽんと落ち着かせるように叩いて、自分の心に負けないようにもう片方の手を血が滲むくらい握りしめた。 すまぬ、一言彼の耳元そういって闇と化す。リクオの顔が鯉伴と重なって見えて胸がツキンと痛んだのを知らないフリをした。 * * リクオが学校から帰った時、よく知っている妖気を感じなかった。朝は感じていた妖気に安心していたところだったのに、それがもう感じることが出来ない。 嫌な予感がして、彼女が使っていた部屋に一目散に向かう。 本家にいる妖怪達が声をかけてくるのも無視して。 「夜宵?」 襖を開け放った先には、部屋の主は居なかった。どうして。そればかりが頭の中を巡る。 よく彼女が書き物をしていた机の上の手紙を見つけたリクオは、手に取ってそれを読む。綺麗な字が淡々と綴ってあった。 "リクオへ 一週間、お前のおかげで本当に楽しく過ごすことが出来た。ありがとう。心残りがないといったら嘘になるかもしれんな。 私にはやらなければならないことがあるから此処をでる。リクオにとってはそれが悪行かもしれないな。そう思った時は一思いに私のことを殺してくれて構わない。 もう会うこともないかもしれんが、また見かけたら声をかけてくれ。ではな。 追伸 机の中にあるものを入れておいた。お前に不幸が降り懸からない願掛けだ。妖怪の私が神頼みというのも変な話だな。" 机の引き出しを引いてみると、そこには神社にあるようなお守りがあった。それに手を伸ばし握りしめたリクオ。 何かを決したように立ち上がりその部屋を後にした。向かうは、自分の祖父の部屋である。 「なんじゃ、リクオ」 「夜宵の居場所、知ってるでしょ?教えて、じーちゃん」 「いやじゃ。お前ぇに教えて後であいつから仕打ちを受けるのは、ワシじゃぞ」 「そんなの知らないよ。ボクは夜宵が何をしようとしてるのか知りたいんだ」 「お前ぇが知らなくてもいいことだってある」 「隠すと、じーちゃんの為にならないよ」 ぬらりひょんは片目で自分の孫を見る。随分な物言いだ、と思ったが、悪い気はしない。三代目が板についてきたじゃねぇか、と心の片隅で思った。 「どーしてもっていうんなら、てめぇで調べるんだな。ひんと、くらいは教えてやる」 煙管を燻らして、ふう、と煙を吐き出した。 「一つ、あいつは本来人里離れた場所に暮らしてる。二つ、かなりの情報を持ってる。三つ、」 妖怪を悪いように扱う人間を決して放っておかない。 「それが夜宵の仕事だ」 ぬらりひょんの言葉にリクオは考え込む。 昨日意味深な質問をしてきた夜宵の顔を思い出した。彼女は人間がよく解らないといった。手紙にも自分が悪行だと思ったら殺してくれて構わない、と書いてあった。果して彼女は何をしようとしているのだろうか。 それ以上祖父が喋ることはないと判断したリクオは、部屋を後にし、三羽鴉を呼び付けた。 「夜宵の動向を探ってくれ」 「解りました」 漆黒の羽を散らしていった彼らを見送って、月を見上げる。月が綺麗だ、と笑った彼女が蘇った。 (夜宵、一体何をしようとしてる?) 110904*up 彼女は一体何をしようとしてるんでしょうか。私にも謎。← [mokuji] [しおりを挟む] |