朝から血流はフル稼働 私の家はなかなか裕福な家庭であると思う。というのも、父が資産家であるからなのだ。まあこの地域に住む人々は、所謂、貴族、と呼ばれる部類の家が多い。 もちろん私もその一人であるわけで。 この家には執事やメイド、といった種類の召使い――という言い方はあまり好きではないが――が属している。 おばあちゃん子であった私は、豪勢な暮らしよりも、森の中にひっそりと暮らしている祖母の暮らしの方が好きなのだけれど、一人娘ということもあって勿論そんな生活は許されない。 でも何人も自分のテリトリーに入ってくるのは許せなくて、一人だけ、という条件で執事をつけてもらっている。 それが。 「名前お嬢様、そろそろお目覚めになられてはいかがですか?」 この私の目の前で微笑むエレン・イェーガーである。 本当は同性が良かったのが本音だけれど、そんな我が儘をいっているのも面倒で、母に決めてもらった結果こうなった。父も「イェーガー君ならきっと尽くしてくれるな!」と豪快に笑っていたけれど、実際そんな甘っちょろい現状ではない。 「うん、そうね」 「お目覚めのお供にジャスミンティをお持ちしました。どうぞ」 「ありがとう、エレン」 「いえ、これがオレの仕事ですから」 にっこりとまるで花が飛んでいるような悩殺スマイルを放つので、これがまた心臓に悪い。ああ父さん、どうしてこんなイケメンを連れて来てしまったのだろう。あ、私が原因か。 「エレンは出来過ぎるよ」と彼に言ったことがある。きょとん、と目を丸くしたのち、ふわりと笑った彼は、私の前に跪いてこういった。 「そのようなお言葉、オレには勿体ないです。お嬢様の為ならば、喜んでこの身を捧げましょう」 そう言って私の手を取って、手の甲にキスをしてきたのだ。男馴れしていない私は真っ赤になって「うわあああああ!」と手を振り払った。当然だ。そんなことされたら心臓がもたない。でもエレンは悪びれる様子もなく、にっこりと笑い「一生ついていきます、お嬢様」なんて言うものだから、しばらく私の顔色はもとに戻らなかった。 まあこんな感じで、出来過ぎるエレンは時と場合によって私を困らせたりもする、ということがあるのだ。きっと父は知らない。勿論言うつもりもないけれど。 「エレン、今日の予定は?」 「はい、まず…」 手帳を素早く懐から取り出して、淡々と予定を読み上げていくときのエレンが、私は好きだったりする。長いまつげがテノールの声と共に振動して、思わず見入ってしまう、というのが真実なのだけれど。 「――名前お嬢様、オレの顔に何かついてますか?」 唐突な言葉に、えっ、と声が漏れる。エレンの目線が手帳から私に移り、口角が弧を描く。 「そんなに見られては穴が開いてしまいます」 いえ、光栄なことですが、と言ってのけた執事に、私は寝起き早々顔を真っ赤にして「エレンの馬鹿!」と枕を投げつける羽目になるのだ。 130815*up [*前] | [次#] 戻る |