02 「あ、なんかみんな集まってる。行く?」 声を掛けた佐倉だったが、市原はその雑踏の中に何かを見つけたらしく、首を横に振った。 「いや、私はいい」 「?どうして?あ、岩泉くん…と、及川くん?」 岩泉はいいとして何故及川が自分のクラスの所にいるのか、はなはだ疑問であった。あれ?及川くんって他のクラスじゃなかったっけ、と佐倉は思う。 「だから行きたくない」 「?え、でも岩泉くんと仲良しだよね?…もしかして、及川くんの事嫌いなの?」 「…そうじゃないけ、」 「市原見っけ―!!」 「!?」 市原の言葉を遮るように後ろから降りかかった大きな声に、佐倉は大きく肩を揺らす。対して市原は大きな大きなため息を吐いた。まるで面倒だ、と言わんばかりの溜め息だ。それと同時ぐらいに、悲鳴なようなものも聞こえて、佐倉は再び肩を揺らす。 此方に寄ってきたのは、輪の中心だったはずの及川と岩泉で、佐倉はさらに困惑した。その問いに答えるように市原が口を開いた。 「何しに来たの、二人とも」 「岩ちゃんから聞いて遊びに来た!」 及川の嬉しそうな顔に対して、市原の顔は不機嫌そうに歪む。 「頼んでない。及川、ハウス」 「ヒドイ!市原がひどいよ、岩ちゃん!」 「俺を巻き込むんじゃねえよ、クソ及川」 岩泉に蹴りを入れられている及川を見ながら佐倉は唖然としたままだ。佐倉が口をはさめないくらい――否、もともと割り込むつもりも少しもないのだが――三人は仲が良いように見える。 「…岩ちゃん、何で言ったの」 「市原、こいつにまとわりつかれる俺の身にもなれ」 「そっか…、ごめんね岩ちゃん」 「え?なにこれ新手のイジメ?ねえ、イジメ?」 何だか一種の漫才をやっているようにしか見えない。しかし市原と岩泉が共闘――と言っていいのかは定かではないが――ところを見れば、成程と思う。これが二人が付き合ってる疑惑が出る原因なのだと。 「市原、バレー久々でしょ!俺が教えてあげる!」 「いらんわ。さっさとハウス、及川」 「俺、犬じゃないんだけど!」 ぽかーんとしている佐倉にやっと気づいたらしい市原が、あー、と参ったように頬を掻いた。 「ごめん、練習もどろっか」 「あ、え、うん!」 練習に戻ろうとしたのだが、及川の一言でそれをいとも簡単に阻止された。てっきりさっきの犬扱いでへこんでいるのかと思いきや、そうではなかったらしいキラキラした及川の視線に佐倉は驚いた。 「市原友達出来たの?よかったね!って、痛っ!!暴力反対!!」 「及川うざい」 「ヒドイ!」 くたばれと言わんばかりに、及川のわき腹に握り拳を喰いこませた市原。 それを怒ることもなく笑って受け流す及川。 及川に対しての態度にやっぱり佐倉は驚くのであった。普通の女子ならばこんなことをすることはなく、むしろ媚を売っているイメージがあるのに、目の前の市原は全くそんなことはなかった。 そんな佐倉の視線に気が付いたのか、及川がとびっきりの笑顔でこちらをむいた。 「あ、俺、及川徹!」 「あ、佐倉真琴!です!」 「よろしく〜!市原と仲良くしてあげてね、痛い!」 「余計なお世話、クズ及川」 「だから!暴力反対!市原、最近岩ちゃんに似てきたよ!?」 「うるせえよ、クソ川」 「もーなんなのこの二人!!俺の事イジメてそんなに楽しい!?」 「「うん」」 やっぱり三人は息があった友達の域を越したような関係なのだろうな、とその様子を見ながら佐倉は思う。いいなぁとも。 きっと三人には他の人を寄せ付けないほどの絆があるのではないか、と彼らが引き起こした嵐に巻き込まれながら、そんな風に感じだ。 この出会いが佐倉真琴の高校生活を変えてしまうだなんて、ちっとも思っていなかった。 130529*up |