▽ 「hallucination」
石田三成に斬られた。
それは俺にとって屈辱でしかなかった。
「…………小十郎」
返事はない。
あの妙な叫び声を聞いてとどめを刺さずに走り去った石田三成を追うことも出来なかった俺に幻滅したのか、あるいは言葉を返すことすら困難な状態なのか。
わからない。わからない。わからない。
わかりたくもない。
何も、かんがえたくなかった。
俺は確かに、天下に一番近いところにいたはずなのに。
どうして。
こんな。
に。
「…………ッ」
Shit!こんなところで、死んでたまるか!
そんな俺の意思とは逆に、どんどん意識が遠のいていく。
まっしろに。
身体が前に倒れていく。
しかし、完全に地面にぶつかる前に、何か柔らかいものに当たった。
それは人間のようだった。
「だいじょうぶですか」
少し乳臭いような、女のにおいがする。
どこか安心を誘う柔らかさに俺は埋れた。されるがままに、甲冑を外される。
「…………もう少しがんばりますか」
がんばりたいですか、と。
鈴を転がすような声で問われる。
もう目が開けていられないくらいに眠たかったが、俺は頷いた。
「…………おれは、だてまさむねだから」
てんかを、とる。
おとこだ。
「なるほど、良い答えですね」
ふふっと女は笑い、俺の頭をぎゅっと抱き締めた。
「では、力をお貸しします。伊達政宗さん」
うっすらと開けた視界に星空が映った。ぼやけていた彼女の顔がはっきりとし、にこりと微笑んだ彼女の後ろで一筋の星が流れる。
そこで、俺の意識は完全に消える。
- - - - -
「…………とうッ、ひっ*う!ひ*とう!筆頭!」
誰かの叫ぶような声で目が覚めた。
起き上がろうとして、身体が悲鳴を上げる。
「良かった!筆頭が目を覚ましたぞ!」
「うおおおおおお!」
まだ傷は完全には塞がっておりませぬ、安静にと強く言われてまた横になる。どうやら薄い皮はくっついているらしい。どう斬ったらこうなるのかと不思議がっている者もいた。
わいわいと無事を喜ぶ皆から目をそらし、俺は寝転がったまま目を細める。
まだあの戦場だった。ただ星は消え、空は明るい。
「…………女は?」
「は?」
「あの妙な女は、どこだ」
皆がはてと首をかしげる。
「さあ……我々が到着したときには、誰も」
これが彼女との出会いだった。
事故のような、夢のような、幻想のような。
もしかしたら、俺の幻覚かもしれない。
だがな、honey。
俺はきっとお前を見つけてみせる。
お前が救った男が天下をとるのをみていてくれ。
そして、天下をとった暁には、俺と。