basara | ナノ


▽ 「ハート暴走」


秀吉様!秀吉様!


敵の斬滅を許可された私は山を抜け森を抜け、草原に出た。日はほとんど傾き、辺りは赤い光に包まれている。


「ちょいとよろしいかな、お兄さん」



突然、ひとりの女が目の前に現れた。
何の前触れもなく、幻想のように。
私は刀に手をかける。


「誰だ。秀吉様に仇なす者か」
「いいえ、石田三成さん」
「なッ」


何故私の名を。
刀にかけた手に力が籠る。
女はへらへらと危機感のなさそうな笑顔を浮かべて、両手を胸の前で祈るように合わせた。


「三成さん、私に、貴方の力になる許可をください」
「…………は?」



何だか。
何だか、何処かで一度聞いたことのあるような台詞だ。
サッと否定出来なかったからか、女はにっこりと笑って私の手を握った。


「三成さん」
「…………ッ」
「きた村英梨です。以後、懇意に」


得意なことは、ひとごろしです。
そう言って笑う彼女は、私と何処か似ている気がしていた。



「…………秀吉様に、あとでお目通り頂く。話はそれからだ」
「はいっ!」



彼女の顔がぱあっと輝くと、何故か一瞬で草原が花畑になった。なんの比喩でもなく、本当に雑草が花になったのだ。


「うわ、失敗失敗。失礼しました」


目の前で次々と起こる不思議な現象に目を白黒させる私の手を、彼女は引いた。


「さ、行きましょう、三成さん!斬滅しますですよ!斬滅斬滅!」
「…………あ、ああ」


この妙な女のことは後回しだ。
ーーー今は、秀吉様のために動く時。


私は彼女に握られていた手を振り払い、駆け出した。



「行くぞ、きた村」
「は、はいっ!」


背後で嬉しそうな声が聞こえ、そしてパチンと指を鳴らすような音がしたあと何の気配もなくなった。



まるで幻想のように。





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