「屋上ガール」


名前は、屋上が好きだ。
あんなに何もなくて、ただ空が開けているだけの場所によくこもっている。


「…………せやから、出てき。さっきからなんべんも言うとるやろ」
「やだ」


お嬢様はご機嫌斜めのようだ。
平子は鍵のかかっていないドアの前でため息をついた。勿論彼の能力でなら、壊すことなど容易い。しかし、最愛のお姫様、名前がそのドアの向こうにいるのだ。壊せるわけがない。


「なあ、名前チャン。そろそろ機嫌治してくれん?」
「機嫌わるくないもん」
「……そうか」


会話が続かない。
事の発端はおそらく今朝、名前が寝坊している間に平子がひよ里と買い物に行った事だろう。(ひよ里談)


「なーあ。俺かてあんな奴と買い出しなんかしたなかったで?仕方なくや」
「知らない」
「…………」


いつもは手のかからない、かわいい彼女なのに。
どうしてこんなにも今日は嫉妬深いのだろう。
平子は前髪をぐしゃりとかき乱して、ドアに背中をつけて座り込んだ。


「……今、メンドクサイ女だなって思ったでしょ」


名前の澄んだ声がドア越しに聞こえる。
平子が反論するのを遮るかのように、外では強い風が吹いていく。ガタガタと金属のドアが振動する。


「あのね、だから、もう別れていいよ」
「…………は?」
「私、真子のこと考えると壊れちゃうみたいなの。だから」


別れよ?


平子は、ドアを思いっきり蹴飛ばした。


「わ!」



名前は、ドアから離れた手すりに腰掛けて空を見ていたのだろう。弾け飛んだドアに驚いて、少しバランスを崩した。


「…………あぶなっ!」
「わっ」


ふわりと手すりから抱きかかえられて、屋上のコンクリートに降ろされる名前。
そのやわらかさを堪能するように、平子は名前を抱きしめた。


「頼むから、そないなことせんといて」
「別に飛び降りるつもりはなかったよ?」


でもありがと、と付け足す名前に平子は首を降って、悩ましげな視線で彼女を絡め取った。


「別れるとか、言うなや」
「…………でも、すっごい嫉妬しちゃうよ?私」
「それがええんやろ」


平子は名前の首筋に鼻先を埋め、髪の香りを胸いっぱい吸い込んだ。


「大好きなんや」


そういうとこも、全部ひっくるめて名前が。


すきすきだいすき、愛してる。
屋上の風が二人を縛っていくように、強くなって行った。


「嫉妬されるなんて本望やろ。もっとして欲しいくらいや」
「私はやだよー」
「お前かてひよ里なんぞに嫉妬するなんて阿保やで」
「んなっ」
「ま、そんな阿保な名前にベタ惚れの俺のほうが阿保かもな」



→→オマケ


「…………ていうか、もし私がドアの前にいたらどうすんの」
「強風でガタガタ揺れとったやろ?お前がそんなとこに背中つけたまんまおるとは思えんかっただけや」
「いや、それ答えになってないよね?居たかもしれないよ?吹っ飛ばされてたかもしれないよ?血だらけだったかもしれないよ?」
「…………しつこいやっちゃなァ」
「んむむっ……ぷはっ!ちょ、ちょっと!」
「大人しくお前は俺の愛のパワー信じとればええんや」





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