「ドラマチック・ビースト」
『…………きしゅして?』
鳥肌必須の甘ったるい声で彼氏を見上げた女は、ご希望通りかそれ以上を貰ってそのドラマは終わった。
「…………」
「……あんまり面白くなかったね」
左陣にそう声をかけると、隣で彼が胸元をびしょびしょにしているのに気がついた。
「ど、どうしたの?!」
「いっ、あ、これは、ただお茶を零して」
「うわっ、大変!」
私はバタバタと雑多な動作で台所に駆け込み、綺麗な布巾を二枚持って引き返した。
「手、どけて」
「う、うむ」
何故か女子のように濡れた胸元を隠していた大きな手をよけてもらい、ぱふぱふとお茶を拭き取った。勿論完全に乾くはずもなく、色も少し残ってしまった。
私は着物の合わせ目から中に手をいれて火傷の確認をしようとして、ガッと腕を掴まれた。
「ふわっ!」
「す、すまん!」
見上げると、左陣がうろうろと視線を泳がせているが、私の手は離してくれない。
四番隊の私としては、一刻も早い怪我の確認がしたいのだが。首を傾げる。
「どうしたの、左陣」
「いっ、いや、その……」
…………ああ、なるほど。この乙女心全開の子犬ちゃんは、婚前の異性に身体を触られるのはどうとか思っているわけだ。
しかし。
「問答無用!」
「んなっ!」
怪我の確認が優先!
勢いよく胸に手を突っ込み、さわさわと毛皮を弄った。ああん、なんてやわらかくて気持ちいい毛並みなの!怪我の確認という大義名分を振りかざしてあまり触らせて貰えない胸元を堪能すると、私は真面目な顔に戻して左陣に敬礼した。
「異常なし」
「最初からわかっていた……」
左陣は赤くなって耳を垂れた。かわいいなあ。
こんなに純粋な反応をされると、もっと虐めたくなるじゃないか。
私は、ふと先程のドラマを思い出した。顔がにやけないように努力しながら、立て膝をついて左陣と目線を合わせた。
「…………きしゅ、して?」
「な、名前!」
「ねぇ」
キス、して?
目で訴えると、左陣は観念したように目を閉じた。顎の当たりをくすぐってやりながら、私は挑発する。
「して、って言ったの」
「…………」
左陣は目を開けて、困ったような顔をして頬を染めた。左陣からキスをしてくれたことなどほとんどないから、当たり前か。この人は本当に乙女のように繊細なのだ。
この遊びは終わりかな。
そう思って正座に戻すと、急に身体が浮いて、唇を奪われた。
「…………ぷ、は」
息をするのも大変なくらい、激しいキスの雨。長くてざらざらとした舌が絡められて、気を失いそうになる。揺さぶられて、膝に置いていた布巾が落ちた。
「…………はあっ、はあっ」
「…………」
左陣の胸に手をついて息を整えていると、左陣にぎゅっと抱きしめられた。
「…………どうした。名前が望んだことではないか」
「…………ばか」
本当、腹が立つくらい惹かれてしまう。
この人はやっぱり野獣だった。
囚われた私の心はもう帰ることはないだろう。
私は左陣に強く抱かれながら、目を閉じた。
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