「豆腐」
付き合ってやっと一ヶ月経とうとしていた。
「さー様」
私は、愛しい人の背中に頬を預けた。
彼はまだ私の全部を見たことがないし、そのつもりもないようだ。それは少し寂しいけれど、生真面目な彼らしくて温かい気持ちにもなる。複雑だ。
しかしこうして身体を寄せると、彼の大きな身体がピクリと跳ねる。それが可愛らしくて、私は彼の背中に欲情する。
「名前……」
「はい?」
名を呼ばれて顔を挙げると、彼の耳が頼りなく揺れていた。
「…………こちらへ」
「…………」
ついに!ついに来ましたか!
彼に導かれて正面で正座した。見上げると逞しい狛村左陣様のお顔が、照れたように私から外れた。
「何故いつも後ろなのだ」
彼はそう言って、豆腐に触れるようにそうっと私を抱きしめた。私が壊れてしまうと思っているのか、彼の惚れ惚れする太い腕には力がない。ゆるゆると弱い引力で、私は彼の胸に身体を預けた。
「…………あったか」
沸騰してしまうのかと思うほど彼の身体は熱かったが、私は彼の質問には答えず目を閉じた。
どうかもう少し、力一杯抱いてくれますように。
どうかもう少し、火照った身体が冷めますように。
まだ慣れないのは、彼だけ。
私がそう簡単には壊れないということを、わからせてやる。
押し付けた額で彼の胸を弄った。
今夜はこれまで。
何か少しずつでいいの。
この感度が変わって行けばいいな。
back