「嘘つきな珈琲」



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修兵が起きてこなくて、むしゃくしゃした気持ちのまま適当に夕飯の買い物を済ませた私は、自隊である十二番隊に顔を出してみた。

「こーんにーちは」

努めて明るく扉を開けるが、お目当ての人物は不在だった。その研究室は人間がいないだけで、わけのわからない器具や装置が蔓延っているのにがらんとした印象を受けた。
寂しい気持ちを埋めるために来たのに、またこんな気分になるなんて。
ついてない。


「何をしているんだネ」
「うわっ」
「…………それが隊長に対する態度かネ」
「…………すみません、涅隊長」


そう。私が会いに来たのは、この不気味な男、涅マユリ様だ。
恐る恐る振り返ってぺこりと頭を下げると、下げた頭を何故か撫でられた。珍しい反応に思わず顔を上げると、隊長はふいと目をそらした。


「…………たいちょ?」
「ここで泣かれたら誤解される、それだけだヨ」


きゅん、と。
胸が撃ち抜かれるのを感じた。
ダメなのだ、こういう態度をとられるのは。


私は逡巡する。
自分の嘘つきとしての技量と、これから起こるだろう出来事を天秤にかけて。



「…………あの、マユリ様」
「気安く呼ぶなヨ」



マユリ様を、選んだ。






- - - - -





「名前ッ!」


修兵の部屋に戻ると、同じタイミングで彼が扉を開けたものだから驚いて固まってしまった。心の準備が出来て居ない状態で、嘘をつけるか。顔に出ていないだろうか、何の証拠もないだろうか。私はぐるぐると思考する。
その間も修兵は何か話していたようだけれど、私にはもう届かなかった。機械的に返事をして、部屋に上がる。


修兵に抱きしめられてかいだ香りが、ふと寂しかった朝の記憶を呼び起こした。
だから、私は余計なことをしてしまったのかもしれない。


「修」


キスしての合図。
修兵は酔ったように求めてきたが、私のはマユリ様とした珈琲味のキスのお裾分け。とても苦いキスの口直し。味なんて感じない。



もう終わるんだろうと感じていた。
きっと修兵にはわからないだろうけど、私はもうずっと前から疲れていたのかもしれない。嘘をつくのも、本音を言えないことも。
いっそマユリ様のように、優しさなんて微塵もない関係になってくれたら。



このまま恋人でいられたのかもしれないね。




さようなら、修兵。
君に私は、似合わない。
何も見抜けない君に、嘘つきの私は。





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