「嘘つきなマシュマロ」



「だーかーらー」


彼がこうやって語尾を伸ばす喋り方が嫌いなのを知っていて、私はわざとそうした。神経をガリガリと逆なでしていく。
本当は私だってこんなことしたくない。
もっとゆっくり、のんびりしたい。
でもね、修兵。

「いい加減起きなさいっ!」
「…………うーん」

いや、わかってるよ。昨日、大好きな六車隊長と飲みに行ってたんだよね。熱く語りすぎてべろべろに酔っ払ったんだよね。わかってる。だって玄関で眠りこける貴方をお世話したの、私だもん。
でもさ。

…………今日は非番じゃん。ふたりで一緒にとったじゃん。あそぼって言ったじゃん。


「…………うー」


また低く唸って布団に潜り込む修兵はかわいいけれど、今日ばっかりは素直に笑えない。確かに何処へ行こうとかは決めてなかったけど、おうちでのんびりってこういうことじゃないよ。


「…………あたま、痛いの?」


だけどそんな気持ちを言えない弱虫な私は、気を遣うふりをする。
ほんとは、一緒におしゃべりがしたい。
ほんとは、一緒にテレビが見たい。
もうちょっと我儘言えば、ほんとは、抱きしめてて欲しい。
けれど、言えない。こんなに嘘ばっかりつく口で、キスしてなんて。


「…………あほらし」


返事がなくなったことだし、買い物にでも行こうかな。
夕飯までには起きていてくれたらいいのだけれど。



- - - - - -



目が覚めると、俺は自分の寝床で布団をかぶっていた。
酔い潰れた自覚はあったから家まで辿り着けたことがまず奇跡。その上寝床で就寝など、何かの魔術としか。

「…………あ、名前か?」

愛しい人の癖字で、書き置きがあった。買い物に行っているらしい。

…………って。


「うわあああ!ごめん、名前!」

今日って、非番だったよな?ふたりで遊びに行くって約束の!
ガバッと力任せに飛び起きて、慌てて身支度を開始した。冷蔵庫にはろくなものが入っていなかったはずなのにきちんと用意された朝食をかきこみ、俺は名前を探しに飛び出した。


「わっ!」
「えっ?」


物凄い勢いで開けた扉の向こうに、びっくりした顔の名前が立っていた。大きく見開いた目をぱちぱちとさせて何も言えずにいる彼女がかわいくて、俺の胸に閉じ込めた。


「ごめん、名前!今起きた」
「あ、ああ、うん、そうみたいだね」
「遅くなっちゃったけど、遊びに行こ。ごめん、俺」
「いいよ、気にしないで。ほら、中入ろ?」
「遊びに行かなくていいのか……?」
「おうちデートも楽しいよ」


ね?と首を傾げる名前に胸を撃ち抜かれ、俺は赤面して大人しく家の中に戻った。扉を閉めるとまた罪悪感が襲ってきて、彼女から買い物袋を攫って台所に運んだ。


「修」
「…………ん」

いつもは修兵と呼ぶ名前が、短く呼ぶのはキスしての合図。小さな身体を少し持ち上げてマシュマロのような唇を食んだ。


「今日は、ずっとそばにいるからな」
「…………うん、ありがと」


腕の中で照れたように笑う彼女の頬をくすぐって、また抱きしめ直す。
きっと名前は珈琲でも飲んでいたのだろう。
さっきの少し苦いキスはしかし、彼女の砂糖のような笑顔で溶けていった。







→→bitterに続く、かも?



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