一陰の間者である祺瑞は、すこぶる美形である。その姿は、宮廷の絢爛さに負けず劣らず華やかで、涼やかな目元から滴る輝きと来たら、桂男と称するに相応しい。
 玉堂富貴が似合う祺瑞は、遠くから目配せする人に気付き、ゆるやかな歩みをはやらせた。側廊を降り、しんとした梅の麓に立つ。
「頭目」
「好、祺瑞。変わりないか」
「はい、異変らしい異変は何も。ふふ、おれという存在に、みなさん、まったく気付かないのが最大の異変ですけれどね」
 くすくすと笑うさまは、牡丹が綻ぶようである。
 仁は、そんな祺瑞に視線を流し、ふっと目を細めた。
「丈夫な皮だな」
「頭目仕込みですから」

May/26 12:24
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