それでも君が、

見つけた日



イギリスは日本と比べて春が来るのが遅い。だから、3月になってもまだ少し寒くカーディガンなど上に羽織るものはなかなか手放せない。そう言えば、ウチらがこの時代へ来て納やかんやで七ヶ月になる。向こうではどうなってるんだろう。そっと脇腹に描かれた花のタトゥーのある部分に触れる。花弁の数は来た当初に比べるとかなり減り、残りは三枚となっていた。

さて、のんびりとこんな事を考えているウチは、ただ今葉っぱにまみれていた。中庭の木の周りでちょっと探し物をしているところなのだ。


「ないなぁ……」


引っかかってやしないかと、せっかく木の上に登ってまでみたのに。溜め息をつき、太めの枝に腰を降ろしてひと休みする。探しているのはウチのカーディガンだ。つい昨日のこと、ほんの短い時間脱いだそれから目を話したらどこかへ行ってしまったのである。風で飛んだ、ウチがどこかへ置き忘れた……って先に考えるものだろうけど、そうじゃないんだよねぇ。

最近、物が消える回数が増えた。ウチが忘れっぽくなったわけじゃない。そして失くし物を探している時、あちこちからくすくす笑う声が耳につくようになった。どう見ても隠されてます本当に以下略。人のもの盗るなんて、やってくれるじゃないのぉ。こうして探しているのはただの気休めに過ぎない。もしかしたら、本当にどこかへ置き忘れたのかもっていう一パーセント未満の可能性が残っているからね。

盗られたにせよ忘れたにせよ、失くなったものは何としても見つけたい。カーディガンなんかは、先に言ったように3月のイギリスがまだまだ肌寒いからって理由もある。だけどもちろんそれだけじゃなくて、ウチとレンの制服以外の生活必需品は全てダンブルドア先生に頂いたものだからだ。頂いたものを次から次へと失くしてしまったら、申し訳ないじゃない。


「さて、別の場所探すかぁ」


ぐっと伸びをした後、それなりに高いそこから飛び降りる。すたっと着地するとその先にちょうどシリウスがいて、飛び降りて来たウチに驚いた顔をした。


「びっくりした。んなとこにいたのかよアキ」
「やっほーシリウス。もしかして探してた?」
「ああ。次の授業休みになったから伝えに。あと、ジェームズが何かして遊ぼうってうるせーから呼びに来た」
「わかったぁ。あ、レンは?」
「レンはリーマスと」
「ん。把握」


先月からお付き合いを始めたリーマスとレン。せっかくだから四六時中二人でいちゃいちゃしてればとウチやジェームズは冷やかすのだが、レンもリーマスも二人きりだけじゃなくみんなで過ごす時間も大事にしたいんだとか。だから、二人でいる時間と皆と遊ぶ時間とをきっちり分けることにしたそうだ。真面目な二人らしいよねぇ。


「……つうか、お前こんなとこで何してたんだ?しかも薄着。寒くねえ?」
「んーちょっとねぇ。カーディガン失くしちゃって探してたの」


そう言ったと同時にくしゃみが出た。天気も少し悪くなってきたし……。あー、申し訳ないけれど先生に事情を話しに行こうかしら。なんて考えていると、シリウスは眉間に皺を寄せて言った。


「なあ、それってもしかして俺のせいなんじゃないのか」
「なんでシリウスのせいになんのぉ」
「だって俺の、」
「きっと、どこかへ置いて忘れてきちゃったんだよぉ」


ファンクラブの存在を自覚しちゃうなんてこの自惚れさんめぇ。いや実際あるしわりと公になってるんだけどねぇ。だけど、これはシリウスのせいなんかじゃない。彼女達とウチの問題だ。だから気にしないで、と言い終えた次の瞬間にまたくしゃみが出た。すると険しい顔つきのままのシリウスは、何を思ったのか自分の着ていたカーディガンを脱ぎ、ウチに投げて寄越した。


「わっ、なにぃ!?」
「やる。それ着てろ」
「えっ、いいよぉ悪いし。それにシリウスも寒いんじゃ…」
「俺はもう一着あるし」
「でも……」
「あ〜〜っ、だからなあ!」


ウチは遠慮して返そうとした。シリウスはがしがしと頭を掻いた後ウチからカーディガンを奪い取り、そしてウチの肩からそれを着せた。


「お前が寒そうにしてるの見んの、嫌なんだよ」


そう言ってシリウスは顔を背け、片手で口元を隠す。ウチはというとあまりに唐突な出来事だったので、目は丸く見開き口はぽかんと開け、なんとも間抜けな顔をしてシリウスを見つめていた。


「っ、行くぞ。あいつらも待ってる」
「う、うん」


しばらくして居たたまれなくなったのか、シリウスはウチの手を掴むと引っ張るようにして歩き出した。相変わらず驚きっぱなしのウチだけど、シリウスの耳が真っ赤になっているのに気づき思わす口元が緩んだ。掛けられたカーディガンが落ちないように押さえる。


「(そう言えば、クリスマスパーティーの時もこうしてくれたなぁ……)」


胸のあたりがほわんと暖かくなったのは、カーディガンを着たからだけではないみたい。


「(……ん?)」


ふと、不穏な空気を感じて後ろを振り返った。そこには、ウチを忌々しそうに睨む女生徒が数人。ああ、なぁーるほどぉ……。


見つけた日
(さぁて、どうしてやろうかなぁ)



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