それでも君が、

駆ける日



「…………暇だな」


今日は休日だ。こっちでの授業にもだいぶ慣れてきて、ジェームズ達の手を少し借りるだけで課題もこなせるようになった。つまりは息抜きする時間が増えたわけで。何をしようかなと考えていると、アキは図書室へ行ってしまった。勉強ではなく、読書をしに。本読むの好きだもんな。


「仕掛け人達はどこ行ってんだろーなー…」


読書の気分じゃないあたしは、アキを追わずぶらぶらと城を歩き回っていた。他に親しくしている子がいないわけではないが、せっかくの親世代ならあの四人と絡むべきだよな!と思いつつ、ぶらつきながら悪戯仕掛け人を捜していた。


「おっ」


談話室にいるのだろうかと、角を曲がったところで向こうの壁で何やらコソコソしている四人を見つけた。後ろ姿だけどばっちり確定。何してんだあいつら。


「おーい。ジェームズ、シリウス、リーマス、ピーター!」
「うわっ!レン!?」
「ばっ!でかい声出すな!!」
「は?」
「見つけたぞ!!」


あたしが声をかけた途端に慌て出した四人。いや、お前の声の方が五月蝿いからなシリウス。そう言おうと思ったが、その後ろにフィルチが向こうから走ってくるのが見えた。


「わっ、バ、バレちゃった!」
「逃げろ!」
「レン、君もこっちだ!」
「お?おお……」


フィルチから逃げるように走り出したジェームズ達四人。あたしはというとリーマスに手を掴まれ、なぜだか一緒に逃げることになってしまった。


「五人まとまって逃げてもダメだな」
「だね。リーマス!レンは君に任せたよ!」
「わかった」


シリウスとジェームズはピーターを引っ張り、あたしとリーマスは別の方向へ走った。悪戯仕掛け人の中心はジェームズとシリウスみたいな認識がされているし、てっきりフィルチも向こうの三人を追いかけると思った。


「ちょ、何でこっち来るし……!」
「はは……。シリウスとジェームズはなかなか捕まらないから、かな」


フィルチがこうして学習しちゃうほど、彼らは日々追いかけっこをしているのだろうか。つーかあたしは無関係なんだけどな……!なんか、前にもこんなことあったなあ。メンバーは違うが。


「レン、しばらく走るけど大丈夫かい?」
「あたしは体力も足にも自信あるから問題ないぞ」
「その言葉、信じるよ」


とは言ったが、リーマスはあたしの手を握ったままだった。走り難いだろうから離してくれていいのに……。いつあたしがバテても引っ張って行けるように、かな?リーマスのこう言う優しいところには、正直キュンとくるものがある。


「しかし、しつこいな」
「うーん。今更ジェームズ達は捕まらないし、僕達だけでもって躍起になってるんだろうね」
「何としても捕まえてやりたいくらいストレス溜まってんだろうなあ」


しみじみ言うとリーマスは苦笑した。そして、あたし達の走っている方向に目を遣りフィルチを一度振り返ってから、何やら考えながら口を開いた。


「ねえレン」
「ん?」
「そこの角を曲がった先のタペストリーに、隠れられる所があった気がするんだ。確かな記憶じゃないんだけど……」
「一か八かってことなら行ってみよ。あれば儲けもんだし、無くても……まあ、何とかなるだろ」


あたしはリーマスの記憶の正しさを信じるし、それに賭けようと思う。そう言うとリーマスは少し目を丸くさせた後、「ありがとう」と笑った。そして、あたし達はフィルチとの距離を更に開けるべく、走るスピードを上げた。


***


「クソッ!どこへ消えた!!」


角を曲がり、タペストリーの裏には隠し穴があった。人が1人2人ギリギリ隠れられるくらいの小さな穴だが、あたしとリーマスはそこで息を潜めていた。


「だ、大丈夫?レン」
「大丈夫だ、問題ない」


まだ外にいるフィルチに聞こえないようヒソヒソ小声で会話する。狭いのだから仕方無いのだが、この密着度……ラブコメか!!ってツッコミ入れたくなる。リーマスも落ち着かなそうにしているし、あたしもリーマスの声がダイレクトに耳に入ってくるこの距離に変に緊張している。ハリーとか双子とは、遊んでいる時に普通にこれくらいくっ付いたりしてるのにな。


「リーマス」
「う、うん?」
「外もう出てもいいんじゃないか?」
「そ、そうだね」


フィルチがいる気配がなくなったので、あたしとリーマスはようやくタペストリーの裏から出た。あたし達の間に流れる微妙な空気。ちょっとリーマスの顔を盗み見ると、うっすらピンク色に染まっていた。

これがきっかけで少しでも意識してくれるようになれば、喜ばしいことなんだが。あたしはキャラクターとしてを差し引いてもリーマスが好きだ。だけどリーマスは、特に学生時代はもっと色々と悩み込んでいそうだからな……。


「………レン、その……」
「おおーい!!リーマス、レン!そこにいたのかい!!」
「悪ィ!走れ!!」
「「は?」」


リーマスが何か言いかけたが、それはジェームズの声に遮られてしまった。声のした方へ目を向ければ、ブンブンと両手を振るジェームズと顰めっ面のシリウスと申し訳無さそうな顔のピーター。そして三人の後ろには、般若のような形相のフィルチ。なんで引き連れて来てんだ!撒いて来いよ!と、顔を引きつらせるあたしの隣でリーマスは、はあ、と溜め息を吐きあたしに手を差し伸べた。


「行こう、レン」
「だな。今度はジェームズ達を囮にしてやろう」
「それは良い考えだね」


この後、図書室帰りのアキも当然のように巻き込み、ゴールのグリフィンドール寮を目指して、あたし達は城中を走り回るのでした。


駆ける日
(すごく感じる既視感)



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