ガリッという音がした。
それと同時に、首筋に裂けるような痛み。
「い…っ!」
これ、噛まれてる?
目だけを動かしてシグナスを見るも、彼は私の首筋に顔を埋めていて視覚からの確認は出来なかった。
それでも、首の感覚では彼の歯が当たっているから噛まれているのだろう。
一瞬の痛みのあとは直ぐにこの感覚に慣れてしまい痛いという感覚は無かったものの、歯が直接肌に当たるのはなんともくすぐったいような奇妙な感覚があった。
「あ、の」
「ん、何?」
私の声に反応したようで、シグナスは顔を上げる。
「シグナスは何をしているの?」
「何って…なまえを噛んでる」
「何で」
「旨そうだったから」
私食べ物じゃないのだけれど。
しかし、いきなり人を噛んできて旨そうってなんだか失礼な人ね。
「いーじゃん、減るもんじゃないし」
「なんか減るわよ」
「例えば?」
「……い、威厳?」
「ウケる」
ウケてない!
口元はヘラっと笑っているけれどこれはウケてないわよ、心底どうでもよさげな顔!!
「なまえ」
「はい」
「俺とお前は恋人だよな」
「そうね」
「なら恋人が可愛い彼女を食べたいのは当たり前だろ」
「………………」
「そんな人を最高に見下した目で見るな」
そんなこと言われましてもねえ…。
恋人を食べたいだなんて初めて聞いたわよ。シグナスはもしかしてカニバリズムだったのかしら。
「カニバリズム」
「違う」
「じゃあ何よ」
そう言えば、シグナスは一度天井を見上げる。
そして息を吸ってから、私の肩をガシッと掴んだ。
「俺は、お前のことが好きです」
「はい」
「なのでキスしたいし、それ以上もしたいです」
「はいはい」
「つまりはそういうことだ!!」
「成る程」
つまり、私を物理的に食べる訳じゃないのね。
「それならば許してあげるわ」
「え、なにか怒られてた?俺」
「さぁ」