第二回 | ナノ



プラズマフリゲートの一室。殆ど使われていなかったその寝具のシーツは、久しぶりに主を迎え新しい皺を走らせていた。
「…………」
その主はと言えば、もはや何週間かぶりの寝装を窮屈そうに纏い。恐る恐るといった様子で、仁王立ちのなまえを見ていた。
「どうですか?久しぶりにベッドで寝る感覚は」
「……何を怒っているのだ…」
「賢人様ともあろうお方が、解らないということはありませんよね」
「…………むう」
ベッドに横たわり小さくなっている賢人様…もといヴィオは、元々白い顔を更に蒼白くさせた。
「いいですか。念のため、賢人様にもわかるように申し上げておきますが」
「……もうその呼び名はやめてくれ」
「ヴィオ様は我々の上司、現段階の司令塔です。貴方が活動の前線にいてくださらないと、私達したっぱは統率が取れないんです」
ほぼ一息にそうまくし立てると、なまえは大きな溜め息を吐き出した。
「無理をして体を壊される位なら、夜の睡眠時間と食事時間くらいはきちんと作ってください」
「……しかし…仕事は、山のように残って」
「したっぱに任せられる部分はないんですか?アクロマ様や、ダークトリニティさんに渡せるものは」
「一人や二人のしたっぱでは、十分な情報量を持っていない。アクロマは自分の研究を優先してばかりだ。ダークトリニティは基本的に、ゲーチス様に頼まれねば動かぬ」
「……………」
「ワタシがやらねば、」
「だめです!」
なまえの怒声に、ヴィオの肩が跳ねる。苦し紛れのそれは、しかし体力も気力も弱まった彼には十分であった。
「貴方はそーやって、いっつも無茶して!今日という今日は見逃せません!なんだったら、」
そう言ってモンスターボールを擲つなまえ。ミルホッグの姿を一瞥するなり、

ヴィオは小さく悲鳴をあげた。
「ミルホッグの“さいみんじゅつ”で!」
「わ、わかった、それは止せっ…!」
構えていたミルホッグは、慌てて声を荒げたヴィオを見てその緊張感を緩めた。なまえの表情が、微かに和らぐ。
「……とにかく。少なくとも一日は、絶対安静です」
「………、資料を読」
「だめです」
そう念を押すと、観念したのかヴィオは静かにシーツを被った。その様子に、なまえの頬が自然と緩む。
「……絶対安静ですよ?今、食べる物持ってきますから」
「………ああ」
数拍遅れての返事に思わず口角を上げながら、なまえはミルホッグを連れて部屋を出た。



部屋に戻ると、ヴィオは横になったままこちらに背中を見せていた。はっとしてから、大きな咳払いをするなまえ。
「……ヴィオ様?」
「…なんだ」
「コソコソ隠れて、何か読んだりしてませんね?」
言われて、漸く向きを変えるヴィオ。
「言われた通りだ」
しかし、その手には何も持っていなかった。
「…ほんとだ…」
「…信用していないのだな」
「……し、心配しているんです」
手にしたトレイを傍らのデスクに置く。それを一瞥すると、ヴィオは再びシーツを被った。
「……世話好きというか、物好きというか…」
「え?」
「何でもない。…お前は持ち場に戻れ」
呟くように告げ、疲労を吐き出すように溜め息一つ。
「……明日には、作戦を再開せねば」
「……“明日には”、ですよ?」

ああ、と言葉で頷いたヴィオ。なまえはミルホッグをボールに戻すと、失礼しました、と高めの声で応え部屋を後にした。



寒い寒いも好きのうち



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