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「っしゃー!!」



いよいよ迎えた関東大会初戦、試合は「五人立」という方式で進められている。これは、各校5名の選手が矢を1人4本携え、ローテーションしながら兎に角的に中(あ)てていくというシンプルかつ一般的な試合方式だ。時間制限も設けられており、それを越したチームは失格となってしまうのでチームワークも非常に大切になってくる。

5人の並び順は1番前から大前、二的、中、落ち前、落ちと称され、最後の落ちは三笠が毅然とした態度で待ち構えている。試合は的中制なので、的の中心に中たった方が配点が高くなるという訳では無く、とりあえず中てさえすれば得点になる。なので得点表は○か×かのみに限られており、氷帝は現段階で中々の○を得ている。



「(これが中たれば皆中だ)」



皆中(かいちゅう)とは4本の持ち矢全てが的に中たる事を指し、今から最後の1本を放とうとしている三笠にはその可能性が充分に見られた。三笠の欄には○が3つ、それも全部安定していたのだ。萌乃はその事に声を上げて応援したい気持ちに駆られたが、厳粛な雰囲気が漂う試合会場でそんな事は出来ない。中たった時に初めて掛け声が許される。

チラリ、と視線を横に移せば、そこにはいつもの優しげな雰囲気はすっかり消え去り、真剣な表情を浮かべている梶原がいる。その表情を見て思わず固唾を呑み、萌乃はもう一度三笠に視線を戻した。

弓を引ききった状態で一度止まる。この動作は会と呼ばれ、萌乃は三笠のこの時の横顔がたまらなく好きだった。



「―――っしゃぁああぁ!!」



パン!と弦が弾かれ、的までの28mを通過する弓を必死に目で追う。三笠の矢はこれまで同様安定した場所に中たっており、氷帝サイドはこれまでよりも一際大きな声で掛け声、もとい歓声を上げた。

初戦から皆中を決めた三笠は他校からも羨望の眼差しを向けられ、そんな彼女を先輩に持てている萌乃はつい得意げになった。結果としても見事ブロック内初戦1位の好成績を収め、部員の士気は高まる一方だ。



「三笠先輩!本当に格好良かったです!」

「ありがとう、まさか皆中決めれるとは思ってなかったからびっくりしたわ」



ひときしり部員から言葉をかけられ最後に萌乃が駆け寄れば、三笠はいつもの冷静な相好を崩し白い歯を見せて笑った。それに萌乃の方も勿論笑顔になり、つい癖で抱き着きそうになるのをぐっと堪える。そんな様子に気付いてか、三笠は更に笑みを深めてから彼女の頭を軽く叩いた。



***



「おめでとう、関東大会突破だってね」

「滝先輩ー!!」



終業式3日前。今日も部活に行く為にパタパタと廊下を駆けていると、テニスバックを持った滝先輩に廊下で会った。そして出会い頭に言われた言葉に気持ちが高ぶる。

初戦の勢いを保つ事が出来た我が弓道部は、昨日の関東大会決勝で見事準優勝に輝いた。優勝までいかなかったのは悔しいけれどまだまだこれからだし、先輩達のやる気は俄然倍増されている。全国大会は再来週から始まり、今はそれに向けての更なる準備期間というところだ。



「テニス部は明日で関東大会終わりですよね?」

「うん。順調に行けば決勝まで行けるはずだよ」



事前に若達から聞いていた情報を改めて確認し、先輩が直接出ないのは知っているけど頑張って下さい!とつい鼻息を荒くして言う。すると先輩は鼻息鼻息と笑って私の鼻をつまみながら、穏やかな笑顔でありがとうと言ってくれた。



「決勝で当たる学校はもうほぼ確定してるんだけど、これがちょっと厄介でね。先輩達を信じるしかないよ」

「その学校、何処なんですか?」

「立海大附属っていうんだけど」



そういえば長太郎もなんか嘆いてたなと思い(若は誰が相手でも関係無いって感じだからこういう事は言わない)、そこで学校名を聞いてみると聞き覚えのありすぎる名前が耳に入った。思わずびっくりして目を丸くすれば、知ってるんだ、と意外そうな声が振ってくる。



「今年の関東大会優勝校、立海なんですよ!ちなみに去年は全国ベスト8までいってて、確かに強くてこのやろーって感じでした」

「うん、テニス部も同じ感じ。去年の全国優勝校なんだ。なんだか因縁深いね」



立海は文武両道を掲げている学校らしく、試合の雰囲気からしてその厳しさはヒシヒシと伝わって来た。それに負けないように掛け声を大きくしてしまったのはつい数日前の話で、少しも動揺していないあの立ち姿は何度思い出しても悔しいくらいに綺麗だ。

で、これは余談。何故私が立海についてここまで知っているのかというと、勿論弓道の強豪校だからというのもあるけれど、第一にウチの親は私を立海へ入学させる事も考えていたらしい。でも立海には幼稚舎が無くエスカレーターで中学に上がれない事から、それじゃ間に合わないと思って氷帝にしたんだって。…改めると本当に失礼だなお父さん!




「何はともあれお互い頑張ろうか」

「はい!応援しまくりましょう!あ、そういえば滝先輩、水泳大会の時大丈夫でした?」

「あぁあれね、恥ずかしい姿見せちゃったなぁ」



そこで話題は変わり、気になっていたけれどタイミングが無くて中々聞けなかった事を切り出してみる。すると滝先輩は照れたように苦笑した。なんでもあの時、隣のレーンの人があまりにも勢いよく泳ぐから水中でネットが揺れて、それが運悪く先輩の足に絡まってしまったらしい。宍戸さんのめちゃくちゃ格好良い姿を見れた反面、先輩にとっては災難だっただろうなぁと今更思う。

でも先輩も大丈夫だって言うから、私達はそれぞれ部活に行く為にそこで話を終わらせた。さぁさぁ応援頑張るぞー!


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