「学食学食ー!」
「いつも思うが本当に中学の食堂なのか、此処」
「ウス」
「ほら、早く席取らなきゃ埋まっちゃうよ」
今日のお昼はお弁当じゃなくて、昨日から皆で約束してた学食に来た。長太郎と樺ちゃんは先輩に連れられて何回か来た事があるみたいだけど、私と若はまだこれが2回目で、その豪勢さにただただ圧倒される。何もかも華美な料理と雰囲気は、いくら2回目とはいえまだまだ慣れそうにない。
「確か此処も、跡部さんがお金を払ってリニューアルしたんだよね?」
「ウス」
「跡部先輩って人ほんとに凄いねえ。校舎を新しくしたのもその人なんでしょー?」
「通りで振る舞いが派手すぎる訳だ」
心の底から感心してる長太郎と樺ちゃんとは違って、若だけはなんとなく不満そうだけど、私はわからないから何も言わない。
とりあえず、悩むに悩んだご飯を手に持って、4人用のテーブル席に腰を降ろす。1回目に来た時はデザートしか食べなかったから、がっつりとしたものを食べるのはこれが初めてだ。樺ちゃんが頼んだ、洋風なメニューが多い中どどん!と用意されていた牛丼には少しびっくりしたけど、これも牛丼が好きな樺ちゃんを考慮して跡部先輩がメニューに入れてくれたんだって。粋すぎるよ跡部先輩!と、私の中で先輩の株がどんどん上昇していく。
「んんー!?美味しい何これ!」
「食べてから話せ」
そうして一口目をパク、と口に放り込むと、今まで食べた事の無い味が全体に広がった。あまりにも美味しくて美味しくて、思わずフォークを持ったまま大興奮する。結果、若に怒られる(礼儀とマナーには厳しいもんなぁ)(私も武道やってるからそういうの身に付くはずなんだけどなぁ)。とかいいつつ若も美味しくてびっくりしてるのか、一口食べた後は一瞬固まってた。やっぱりそうなるでしょー!
そんな私達の反応を見て、長太郎と樺ちゃんは嬉しそうに笑う。値段はちょっと高めだから毎日は無理だけど、週に1回くらいこうやってとびきり美味しいものを食べるのもいいなぁ、と私の中で密かな計画が立てられた。
もぐもぐ。むしゃむしゃ。ごくごく。誰もが食べる事に夢中になっていたその時、ふいに入口の方からキャー!と黄色い声援が聞こえてきた。突然の事にびっくりして、うっかり海老を咥えながらそっちを振り向くけど、3人はなんか慣れた様子だ。なんで?
「…あ!跡部先輩だ!」
「いっつもあんな感じなんだよ」
必死に目を凝らしてそっちを見ていると、人波の間からチラリとあの端正な顔が見えた。また若に怒られそうだったから、しっかりと海老を飲み込んでから声を上げる。それに対しての長太郎の返事で、だから3人はびっくりしてないんだなぁと勝手に納得する。これが日常茶飯事とかひょえぇえ。そうして改めて声援のする方に目を向けると、女の子達の間からようやく跡部先輩が抜け出して来た。あんなにもみくちゃにされても嫌な顔1つしていなくて、手慣れてるのもあるんだろうけど、心が広いなぁ。
「あの人がいる場所はすぐわかる。うるさくて敵わない」
「でも流石だよー、全然嫌がってない!」
「萌乃ちゃんはすっかり跡部さんのファンだね」
「ウス」
ふと3人に視線を戻せば、長太郎は微笑んでいて、樺ちゃんも凄く嬉しそうにしている。若だけは相変わらず不満げだけどそんな表情をするのはいつもの事だから放っておいて、もう一度跡部先輩に視線を送ろうとした、ら。
「なんだ樺地、今日は学食なのか」
「ウス!」
「こんにちは、跡部さん!」
「…こんにちは」
なんと至近距離に跡部先輩がいた!後ろには沢山の女の子達を引き連れている。当たり前のように当の本人は全く気にしてない。
跡部先輩と話す3人は、樺ちゃんは慣れているからかいつも通り(むしろ嬉しそう)だけど、若と長太郎はちょっと緊張してるのか固い感じがする。そうして4人が部活の事とか色々話し終えた所で、先輩の視線が私に向いた。わぁ綺麗な目!そんな事を考えてぼーっとしつつも、挨拶しなきゃ!と思って勢いよく頭を下げる。
「こ、こんにちは!」
「お前か、こいつらと仲の良い女っていうのは」
「は、はい!幼馴染です!」
「そんな緊張してんなよ」
先輩の高貴な顔から発されたハハッ、という気さくな笑顔を見て、女の子達が夢中になるのも無理はないと瞬時に判断する。かっこいいいいいい!!
「飯は美味いか?」
「凄く美味しいです!初めて食べました!」
「そうか、沢山食えよ」
「はい!」
そうして跡部先輩はじゃあな、と言い残し違うテーブルの方へ行った。そのテーブルにも多分テニス部だと思われる人達がいて、思わずその背中に見入る。
「何見とれてんだ」
「跡部先輩かっこいいー…!」
「あはは、部活中は厳しいけど普段は優しいからね」
「ウス、跡部さんは、優しい、です」
3人が慕ったり、全校生徒がキャーキャー騒ぐくらいなんだから、素敵な人なんだろうなぁとは思っていた。でも、ここまで素敵な人だとは流石に予想出来ていなくて、私の意識はすっかり跡部先輩に一直線だ。まさに跡部様様!それから先輩に言われた通りご飯を口にいっぱい詰め込んで食べていると、若に単純馬鹿野郎、と貶されながら頭を叩かれた。痛い。