放課後の教室で想い人の席に勝手に座ってみたところ本人に目撃された



柳は格好良い。

そんな事、私が今更言わなくてもこの学校の人達は充分に知っているだろう。それでも言う。何回でも言ってやる。柳は格好良い。



「何をしてるんだ」

「…あれ」



事の発端は至って普通で、今年の春に同じクラスになったのがキッカケだった。隣の席どころか近い席にすらなった事無いし、話した事も数回(しかも義務的な事)しかないけれど、それでも柳は充分すぎるほど私のドストライクだった。だから、普段話せない分放課後位好きにさせてくれという意味で日直の仕事の後に柳の席に座ってたのだけれども、まさか張本人が来るなんて全くの予想外だ。予想外すぎて逆に冷静な自分が怖い。

どうしようかと迷い唖然としている間にも、ユニフォームを着た柳はずんずんとこちらに近付いてくる。そして、とうとう目の前まで来た。



「そこは俺の席だが」

「うん、知ってる」

「何をしてるんだ」

「日誌に誤字が無いか確かめてる」

「わざわざ俺の席でか?」

「うん、わざわざ柳の席で」



ええい此処まで来ればもう自棄だ。にしても少しは恥じらいとか持てよ、なんて可愛くないんだ自分。頭の中ではそう思いつつもこの性格はちょっとやそっとじゃ直らず、ただただ何を考えているのか分からない顔で見つめてくる柳をじっと見返す。すると柳は不意にフッと笑い、「次の席替えのくじには細工でもしておこうか」と呟き、そのまま去って行った。



「…あれ、ていうか何しに来たのあの人」



平然を装って呟いてみたけれど、実際平然だったらこんなでっかい独り言を呟くはずも無く、それを自覚するなり今誰かに顔を見られたら死ぬ、と思った。



「(まさか、テニスコートから見えて来たとは言えまい)」



thanks/確かに恋だった
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