変なヒト 「……んんんん!?」 扉の向こうは―――イケメンパラダイス、ってやつでした。 「お、おおおお父さん」 「どうしたえみか、そんなにどもって」 「これ、どういうこと?」 大ホールに入ってすぐ、私は目の前の人達にそれはそれは圧倒されて、思わず小声でお父さんにそう問いかけてしまった。するとお父さんは私の考えなんて全くわかっていない様子で、何故かドヤ顔で口を開いた。 「よりすぐりの高校生達が繰り広げる舞台だ!ナメてみちゃいけないぞ?」 「こ、高校生じゃないでしょ!」 「何言ってんだお前と同年代ばっかだぞー。ほら、そこ座ってろ」 詳細を聞かなかったのはやっぱりミスだったのかな?だって、まさか、まさか、男の子だけなんて。しかも私と同年代なんて言われても全くしっくりこなさすぎるくらい大人っぽすぎて、その数々の視線に若干肩が委縮する。 「(…んま、料理だけ頑張れば良いかぁ)」 とは言え、過ぎちゃったことは仕方ないし此処まで来たらもう仕方ない。一瞬びっくりしたけど、もう引き返すことも出来ないし、こういう時は切り替え切り替え! そんな感じで割とあっさり踏ん切りが付いた私は、とりあえず裏方さん達が並んでる椅子に座ってみた。 「貴方が松田先生の娘さん?」 「はい!松田えみかです!」 「話は聞いてるわ。私は下山!で、こっちは金城ね」 「金城です、よろしくねえみかちゃん」 「よろしくお願いしますー!」 「ケータリングスタッフは他にも何人かいるけど、先生からよろしく頼まれてるのは私達だから、何でも気軽に質問してね」 「ありがとうございます」 話しかけてくれた下山さんと金城さんは、お父さんより少し下の年齢くらいの優しそうな女の人だ。良い人そうで良かったー、安心安心! 「それじゃあ、始めようか」 その時、お父さんの凜とした声(お仕事モードだ)が耳に入り、私も背筋を伸ばして聞く体勢に入る。 「顔合わせと言っても君たちは皆面識があるからね。今回の舞台も緊張せず、リラックスして、いつもの自分達でやってくれ」 お父さんの言葉に皆さんは「はい!」と声を揃えて返事をする。よりすぐりの高校生って、この人達一般人なのかな?なんでこの人達は皆面識があるのかな?分からないことだらけで頭がぐるぐるする。うー、お父さんに後で聞いてみよっと。 「えみか!」 「は、はいっ!」 観察も兼ねて皆さんの顔をじーっと眺めていたら、急にお父さんに呼ばれ思わず声がひっくり返る。びっくりした反動で立ち上がる椅子のうるさい音が響いて、なんだかもうてんやわんやだ。へ、平常心!保て自分ー! 「娘のえみかだ、裏方として働いてもらう。主に飲食のケータリングスタッフだから、食いたい物はコイツに言うと良いぞー。あ、俺の弱点とか聞き出さないでなー」 お父さんがそう言うと、皆さんは顔を緩めて笑った。あれ、何だろうこのキラキラした世界。私の挙動不審なんて一気にどっか行っちゃった。 「えみかです、よにょ、よろしくお願いします」 私からも何か言わなきゃ、と慌てて背筋を伸ばして、思い付いた当たり障りのない言葉を口に出したものの、まさかの噛んだ。なんで最初っから噛むの!と自分で自分に盛大にツッコんだけれど、皆さんはツッコんでこない。よしバレてない! 「えみかちゃん、緊張しすぎ」 「あ、あははは」 それでも椅子に座ると下山さんに笑いながらツッコまれた。…バレてるのかな? 兎も角、顔合わせはこれで終わりだ。皆さんはまず台本読みに入るみたいだから、その間に初仕事である昼食作りに取りかかる!よーし、レシピノート活用するぞー! |