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「うっし、じゃあ次は花火を見るんじゃなくてするか!」



先生の急な提案に俺達は一度驚き静まり返ったが、すぐにその場は歓声に包まれた。先生はその反応に満足したように頷いた後一度何処かへ行き、あらかじめ用意しておいたのか大量の花火を手に持って再び俺達の前に現われた。



「行くぞー!」

「もう、貴方が1番楽しんでるんじゃない」



先生の奥さんは、呆れながらも嬉しげに言葉を投げかけた。それを見て他の奴らも更に嬉しそうにする。



「父が父なら娘も娘やな。ま、もちろん良い意味で、やけど」

「…あぁ」



隣でそんな事を呟いている忍足は軽く流し、俺は先生に続いて足早に家を出て行く奴らの後ろ姿を眺めていた。



「景くん、行かないの?」



隣にいた忍足はもう1人の忍足に連れ去られたが、それでも俺は特に急ぐこと無くその場に佇んでいると、そこに唇の端にご飯粒を付けたえみかが近付いてきた。その間抜けな面に苦笑を1つ漏らしてから、とりあえず指でご飯粒を取ってやる。するとえみかはいつも通りの悠長な物言いで「ありがとうー」とお礼を言ってきた。



「で、行かないのー?」

「あぁ、行くぜ」

「じゃあ早くー!」



まるで小さい子供のように俺の腕を取り、靴を履き替えるよう急かし、そしてドアを開け外へ出るえみか。花火はこの家の近くにあるグラウンドでやるらしく、前方には奴らが既に歩いている。



「あんまり走ると転ぶぞ」

「むー、そんなに子供じゃないよ」

「どうだか」



俺が少しからかうと、えみかは単純な事に頬を膨らまし反抗してきた。扱いやすいなコイツ、と心の中で笑う。



「いっぱい食べさせられてたみてぇじゃねぇか」

「うん、もうお腹いっぱい!シメの白玉が1番きたよー、お団子ってお腹にたまるんだもん」

「千歳は楽しそうにお前の口に放り込んでたけどな」

「あれ、もしかして…遊ばれた?」



そんな今更な事、今気付いたのか。俺はそのあまりの鈍感さと無垢さに、喉をクツクツと鳴らし笑った。



「でも、不思議だねー」

「何がだ?」



するとえみかは急にそんな事を言い出した。今の話の流れからなぜ不思議、という感想に繋がったのか。言葉の意味がわからない俺は即座に聞き返す。



「こんなに素敵な人達が一気にこんなに集まって、しかも素敵で優しくて、で、」

「混乱してんじゃねぇよ」



その短文の中で混乱すんなよ、えみか。でもまぁ、なんとなく言いたいことはわかるがな。俺的に奴らは別に素敵な人達でもなんでもねぇが、こうもゆかりのあるメンバーが揃うのは本当に珍しい事だし、嬉しくもある。テニス以外でもまた良きライバルとして一緒に戦えるなんて、滅多に無いからな。

そう思ったところでふと視線を斜め下に移すと、そこにはいやに笑顔で俺の事を見上げているえみかがいた。



「…何笑ってんだ」

「えへへ、景くんが嬉しそうだから!」

「…」



特に表情を変えたつもりはねぇが、えみかが言うんなら本当なんだろう。鈍感かと思えば鋭かったり、こういうところは本当に敵わねぇって思う。



「えみか」

「ん?」

「…いや、何でも無い」



自分でもなんでえみかの名前を呼んだのかよくわからなかったが、それでもなんとなく、その理由は心の中にぼんやりと浮かび上がっている。だがそれはわざわざ言うまでも無い。



「行こう、景くん!」

「あぁ」



だって、コイツは口に出さなくても気付くんだからよ。全くとんでもない奴だぜ。…悪くはないがな。変わらず俺の腕を引っ張って走るえみかの後ろ姿を見ながら、そんな事を思った。
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