魔の手はすぐそこに

果てしなく続く青空、流れる雲、程良い日差しの太陽。微かに聞こえるのは生徒達の賑わった声。



「ふー…」



時は昼休み、場所は裏庭。誰も来ないこの場所、いわば穴場で過ごす一時が、最近の唯一の癒しである。今日は香月はラグビー部でミーティングがあるからそっちの方に行ってるし、景吾達からは捕まる前に逃げてきた。色々人が集まる前に逃げないと、女子の視線だけで殺されそうだからね。

それにしてもなんて穏やかなんだろう、と目を閉じてウトウトしていると、ふいに視界が何かによって暗くなるのを感じた。だからその暗さに薄く目を開けると、目の前には1人の男の子が立っていた。



「朝倉さんだよね?」

「え?」



見下ろしてくる男の子は凄く笑顔で、格好良いというよりも綺麗な感じがする。



「初めまして、俺滝萩之介。よろしくね?」



一見優男に見えるけど、直感で、穏やかな時間はこの人によって壊されると確信した。



***



「あれー…?」

「萩之介か。珍しいじゃねぇか」

「うん、そうなんだけどさ」



ひょこ、と顔を出して中を様子見ても、そこに俺の目的人物はいなかった。代わりに彼女と同じくこのクラスの生徒である跡部が近付いて来たけれど、残念、今日はお前に用は無いんだ。



「なら他探そっと」

「…お前」



そう言ってドアから体を離せば、跡部は俺の思惑に気付いたのか眉間に皺を寄せて睨んできた。やっぱり跡部は勘が良いなー、なんて悠長に思いながら、軽く口元を緩める。



「何するつもりだ」

「ん?なんのこと?」

「とぼけてんじゃねぇぞ」



怖い怖い、額に青筋浮かんじゃってるよ。冷静な跡部も朝倉さんが絡んだらこんなに子供っぽくなるんだー新発見だね。まぁ、そうなっても俺には関係無いんだけどさ。



「なんで?皆友達になってるじゃない。俺もなりたいだけだよ」



だから何も気付いていないような口調でつらっとそう言えば、跡部は更に不服そうな表情になった。だって、跡部はテニスでは俺に勝っても、こういう面では勝てないもの。だから、何かを言いたそうな顔はしてるのは一目瞭然だけどそこにあえて触れてやるほど俺は優しくない。



「で、何処行ったの?」

「…俺も知らねぇ」

「ふぅん」



どうやら知らないのは本当みたいだ。じゃ、自力で見つけ出そうとしようか。



「それじゃあ俺は失礼するよ」

「おい、」

「大丈夫だってば」



どうせなら思いっきり引き止めればいいのに、それが出来ないのは彼女へのどんな想いが邪魔をしているのか。分かりきっているそれにはまた気付いていないフリをして、俺はそのまま廊下に出た。ごめんね跡部、この興味を掻き消しておける程俺だって大人じゃないんだ。
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