ドアを開けた先には超冷たい目で俺を見てくる長太郎と、この前跡部達のクラスに転入してきたっつー地味な女がいた。そういえば何でかわかんねぇけどジローも跡部も、あと一匹狼だった安西もコイツの事大事に思ってるみてぇなんだよな。俺にはさっぱりわかんねぇけど。 「何の用ですか」 「…さっき跡部から連絡あってな。今日はミーティングだけらしいぜ?」 うわ、こりゃ後で愚痴られる事間違いなしだな。長太郎の予想以上の不機嫌さを見て若干後悔しつつも、さっきドアんとこで待ってた時に通りかかった若が言ってきた事を復唱する。若も「何でそんなとこにいるんですか」とか聞いてきたけど、岳人同様適当に流しておいた。岳人と違ってアイツは頭弱くねぇから随分不審な目を向けられたが、まぁ気にしないでおく。 と、そんな事はどうでもいいんだ。 「ミーティングなんだ。もうちょっとで始まっちゃうよ?」 「でも…」 「ほら、先輩が迎えに来てくれたんだしさ。私明日も大丈夫だから」 「本当ですか?」 「うん」 ふーん、と密かに舌を巻く。確かに会話を聞くだけでも、性格が落ち着いててそこら辺の女と違うっつーのはすぐにわかる。でも…なぁ?もっと美人で性格が落ち着いてる女ならそこら辺、特に長太郎の周りならたくさんいるだろうに、何でよりによってコイツなんだ? 「宍戸さん行きましょうっ!」 「お、おう」 明日も約束出来た事がそんなに嬉しいのかしらねぇが、入ってきた時とは打って変わった嬉しさ全開、っつー感じで話しかけてきた長太郎に、俺は体を仰け反らせた。つーかすまん、正直若干引いた。 「どうも」 「…おう」 ついでに長太郎の横にいる転入生に目向けたら、控えめの笑顔と一緒に軽くお辞儀をされた。…んー、やっぱり普通だな。まぁ頭下げてるからそんなに顔見えねぇけど。 しばらく転入生の顔を観察していた事が気に食わなかったのか、長太郎は珍しく強気で俺の腕を掴んできた。それを軽く振りほどきつつうるさく言ってくる長太郎と音楽室を出る間際、転入生は控えめでは無く、歯を見せた明るめの笑顔を見せてきた。…あぁー。 「もう!何見惚れてるんですか!」 「あ?誰がだよふざけんな馬鹿野郎」 なるほど笑顔はまぁまぁだな、と思ったなんて、長太郎には口が裂けても言えねぇ。っつーか言いたくねぇ。 *** 「ちょっと宍戸さん!何で来たんですか!?」 音楽室から出て俺はすぐに宍戸さんに詰め寄った。だって約束破るなんて酷すぎるでしょう!?折角の泉先輩との時間が台無しです!そんな思いを吐露しても、宍戸さんはうるさそうに両手で両耳を塞ぐ仕草を見せる。 「だから伝言の為だっつーの。ま、あの女を見たかったっつーのもあるけどな」 「あの女!?何様ですか宍戸さん!朝倉さんです!朝倉泉さんです!」 「言っていーのか?俺あの女の名前知らなかったんだぜ」 「…詮索禁止ですよ?」 「誰がするかボケ」 来たのが最後の方だったって言うのが不幸中の幸いですけど、もー、宍戸さん本当に酷い!眉間に皺を寄せながらふと横を見ると、何故か宍戸さんはいつになく真剣な表情をしていて、俺はそれを見て恐る恐る「惚れたりしてませんよね?」と問いかけた。実は気になって仕方なかったのは秘密だ。でも、そんな俺に反して宍戸さんは呆れたように盛大な溜息を吐いた。 「当たり前だろ。っつーかどこがいいんだよ?地味じゃねぇか」 「宍戸さん?」 「…悪かった」 惚れてないなら一安心ですけど、先輩は美しいです!それは間違いありません!だからいくら宍戸さんでも先輩を馬鹿にするような言葉は許せないんです! 「あんなに綺麗じゃないですか!まっ、わからなくていいですけどね。只でさえジロー先輩や部長のお気に入りみたいだし」 「わーってるっつーの」 とはいえ、確かに興味は持ってほしくないけどここまで興味無さそうにされるのも癪に障る。だってあんなに綺麗じゃないですか、泉先輩。色白だし華奢だし整ってるし。あ、勿論先輩の魅力は顔だけじゃないですけどね、顔も含めてってだけで!全部です全部! 「なんでかなぁ…」 「お前は俺にどうしてほしいんだよ」 ま、いいか。さーて明日は先輩に何聞かせようかなー! |