小さい割に強い。それが率直な印象だった。 「すまねぇ、遅れた」 「部長が1番遅いなどたるんどるぞ!」 「すみません、私のせいなんです」 「…君は?」 今日は前々から約束していた氷帝との練習試合の日だ。時間通りに氷帝の奴らは来たけど、肝心の跡部の姿がそこにはなかった。どうしたものか、と思案すること数十分後、彼は遅れてコートに入って来た。 そして、俺の目は自然と隣にいる見た事の無い女の子に向く。随分跡部とは不釣り合いだなと正直思ったけれど、真田の貫禄に怯む事なく堂々とそう言い放った姿を見てそれはすぐに撤回された。その地味な容姿は仮面かな? 「今日1日マネージャーを任されました朝倉泉です、よろしくお願いします」 「俺は部長の幸村精市だよ。よろしくね」 「…副部長の真田弦一郎だ」 マネージャーねぇ。氷帝がマネージャーをとらない理由はてっきりウチと同じ理由だと思っていたけれど、一体どういう風の吹き回しか。 自己紹介が終わると朝倉さんはまた遅れて来た事について言及しようとし、それを跡部が庇い、なんか見せつけられてる気分になる。珍しいものを見れた。 「女子にしてその威勢は認める。だが、時間は厳守しろ」 「はい。すみませんでした」 「同い年なのだから、敬語はやめてくれ」 「うん、わかった」 今まで怖がられる事は数知れずあったけれど(むしろ全部そうだろう)、こうも真正面に話されるとそれはそれで違和感があるのか。真田は若干圧倒されたような、扱いに困っているような態度で帽子を深くかぶり直した。うわ、こっちの方が珍しい! 「じゃあ皆待ってるし行こうか」 その場で思いっきりからかってやりたい衝動に駆られたものの、只でさえ時間が押しているし今日の目的は練習試合だ。だから俺はにっこりと笑顔を浮かべ、浮き足立ちながら3人を引き連れコートに歩き始めた。今日はなんだか楽しくなりそうだ。 *** 「本日1日マネージャーをやる事になりました、氷帝学園3年の朝倉泉です」 その言葉の後に、よろしくお願いします、と我ながら堅い声で頭を下げる。ここで話しかけにくい印象を与えておけば厄介事には巻き込まれないだとう、という私なりの境界線を張ったつもりだけど、ジロー達がいる限りそれを突き通せるかはいまいち不明だ。真顔でそんな事を考えながら、今回私がサポートする両校のレギュラー、準レギュラーを見る。 「何、マネになったん?」 「うん」 「ずっとやってくれればEのにー」 「ごめんね、今日限定」 立海の人は全く興味なさそうだけど、氷帝の皆はマネージャーという言葉に早速うるさく反応している。こういう展開になるなんて、私が1番思ってなかったわ。 「じゃあこっちの自己紹介もしようか」 「はい、お願いします」 「敬語直ってないよ?」 「…ごめん」 そこで話を切りだしてくれた幸村君に注意され、首を竦めながら口調を崩す。なんか立海の人って凄い貫禄があるから、どうしても敬語になっちゃうんだよなぁ。というのは口には出さない方がいいだろうか。 「柳生比呂士です。以後お見知りおきを」 そんな事を考えていたら、まず最初に眼鏡をかけている落ち着いた風貌の柳生君が自己紹介をしてくれた。それに続いて他の人も前に出てくる。 「柳蓮ニだ、よろしく」 「ジャッカル桑原だ。好きに呼んでくれ。よろしくな」 「丸井ブン太。シクヨロー」 「2年エース切原赤也ッス。よろしくー」 …ブン太さんと赤也さんだ。何だか撮影の時とは態度が豹変しててちょっと怖い。でも、紅一点なはずの女の子がこんな地味じゃ無理もないか。容姿だけで態度を変えられるのは寂しい気もするけど、この年代の男子だし仕方ない。そう割り切り私は苦笑しつつよろしく、と皆に返事をした。 「仁王雅治じゃ、よろしく」 その時、最後にしっかりと目を見据えて言って来たのは仁王君には、直感だけどなんだか物凄く一癖ありそうだと思った。 「じゃあ、練習試合について説明するよ」 ここらへんの事はよくわからないので、私はまだ説明を続けてる幸村君から離れて、とりあえずドリンクを作る為にその場を後にした。マネージャー業なんてやった事無いけど大丈夫かなぁ。 |