「いらっしゃいま、せ……」
巻島裕介は思考、体共に固まった。何故なら入って来た客が見知った顔だった……だけでなく、ライバル校の3年生たちだったからだ。自分がバイトをしている姿を特にカチューシャをしている人物にだけは見られたくなかったから必死で目を合わせないようにした。しかしいかんせん彼の髪の色は奇抜で、そうそういるものでもなく「巻ちゃん!」とあっという間にバレてしまうのだった。
「ンだよ、巻島ってお坊っちゃんじゃなかったのかァ?」
「社会勉強じゃないか?」
「……迷惑はかけるなよ」
荒北、新開、福富が口々に言う。巻島は色々言い返したかったが今はバイト中で、他にも仕事をしている人もいるため耐えるしかなかった。
「巻ちゃん、あのさ――」
「4名様でよろしいですかー」
目線を合わせず棒読みで尋ねる。ほんとはこれNGだけどこいつらだし、良いっショ、と適当に接客をする。
「巻ちゃんが冷たい……」
「こちらのお席へどーぞ」
東堂なんかに構ってたら仕事にならない。……ん? 女性客の視線……そうか、コイツは女子に人気……客寄せに使える……! 巻島の脳内を狡い案が駆け巡る。
「東堂」「ま、巻ちゃん! バイトのあと空いてるか?」
しめた、巻島はニヤリと笑う。
「オレが終わるまで待ってくれたら家に呼んでやっても良いっショ」
この店はそんなに繁盛していない。1時間に5組くれば良い方だ。しかし東堂たちのおかげか、今はどうだ。満席になりかけている。
「ままま、巻ちゃん! ああ、いつまででも待とうではないか!」
「バァカ、ンなに待ってられっか」
「いいや、オレだけでも残るぞ!」
東堂の言葉にチームメイトはため息をつくが、巻島は内心ガッツポーズをしていた。もしかしたら昇給かもしれない。
その数時間後、東堂はウキウキしながら、巻島は多忙によりげっそりしながら帰路についた。巻島は自分の過去の行動を呪った。
何故、あんなことを言ってしまったのか……。
バイトで疲れてこれから家でもうるさい東堂を相手にしなければならないのだ。
「バイトをしている巻ちゃん、可愛かったな!」
「……可愛いとか言うなっショ」
なんだかんだ、東堂の笑顔に弱い巻島は気づけば微笑んでいた。

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