うちのコタツに入って、借りてきたDVDを一緒に観ていた。ものすっごく爽やかな男の子と、見た目は暗い女の子。見ているこっちが恥ずかしくなるくらい初々しくて、かわいくて。随分自分から遠のいてしまった“学生の恋愛”に、どきどきしながら見入っていたのだけど。 最初は私の真横に座っていた蔵ノ介くんが、私の真後ろに移動して。私は彼の両足に挟まれ、両手でホールドされ、身動きが取れない。 それだけなら映画を観る妨げにはならないのだけど、彼が私の肩口にかぷりと噛み付くから。 うひょあ!と、素っ頓狂な声を出してしまった。
週末のとんだ窒息死
「なっ、何するの……!」
振り返ろうと思って少し体を離すと、後ろからぐいと引き寄せられて、振り返ることが出来ない。そのままもう一度肩口を甘噛みされて、べろり。舐められた。
「ひっ」 「名前さん、色気のある声出してくださいよ」
蔵ノ介くんの舌の感触にまた変な声が出て、くつくつと笑われる。なによ。もう。こんな肩の開いた服、着るんじゃなかった。
「なによ急にー」
そう聞いてみても、「んー」だか何だかよく分からない曖昧な返事をされ、今度は本格的に噛まれる。ふつうに、痛い。
何がきっかけか分からないけど、甘えんぼモードになっているらしい。 普段はとても穏やかで、きみは本当に年下かと聞きたくなるほど大人っぽい彼。それはそれで照れるし、ときめく。けれども時折やって来る甘えんぼモードには、照れるとかときめくとか、そういうのじゃなくて。ほとほと困っていた。 というのも、かなり本気で噛み付いてくるからだ。
「痛いよー」 「ん、」
痛いと言うと、噛むのをやめてそこを舐める。そしてまた噛む。 ぎゅうぎゅう抱きしめられながらそんな事を繰り返されたら、映画に集中なんて出来ない。
テレビの電源を落とすと、蔵ノ介くんが嬉しそうに笑ったのが感じ取れた。
「こっち向いてください」
きみがホールドしてたから振り向けなかったんだよと、思ったことを飲み込んで、大人しく体ごと振り返った。蔵ノ介くんの足の間でちょこんと正座をすると、彼の目線と私の目線の高さが同じくらいになる。
蔵ノ介くんが私の右手を取って、指先に口付ける。五本全部に唇で触れて、人差し指を口に含まれ、噛み付く。痛みに、反射で口から引き抜こうとすると、更に噛まれる。 いたいよ、蔵ノ介くん。
「蔵ノ介くん」 「はい」
呼ぶと、私の人差し指を解放して、にこりとニヤリの間のなんとも表現し難い顔でこちらを見る。 なに。なんでも。その短いやり取りの後、顔を近づけてきて、ちゅ、と鼻の頭にキスされる。それは可愛い音で、やさしい感触なのだけど。すぐ後にはやっぱり、歯で噛まれて。
「……鼻が取れたらどうするの」 「縫ってあげます。裁縫、苦手やないんで」 「……それはどうもありがとう」
なんなんだ、この男は。 付き合い始めて三年。未だによく分からない。
それから両頬に、両耳に、額にキスをされて。 焦れったいなぁ。そう思ったところでようやく唇にキスしてくれた。 味わうように舌を絡め、音をたてる。甘えんぼうのくせに。なんていやらしいキスをするんだ。 下唇をやわやわと噛まれて、そろそろ離れるのかなと思ったら、また口付けが深くなった。角度を変えて、歯茎を舐められ……長い長いキスに、苦しくなる。唇の隙間から取り入れる酸素じゃあもう間に合わなくて、はなして、と蔵ノ介くんの胸を叩いた。
唇が離れて、呼吸を整える。キス、長いよ。訴えると、名前さんがかわええからと言って、蔵ノ介くんが目を細めて笑った。
「名前さん」
ぐり、と肩に額を押しつけられて、名前を呼ばれる。なぁに。返事をしても、その返事は無い。 名前さん。また呼ばれる。 その声に、じくじくと胸を焦がされる。
「来年、俺が卒業したら」 「うん」 「卒業したら、」
……卒業したら? その続きが聞きたいのに、蔵ノ介くんは、言ってくれない。……言ってくれないなら、私の都合のいい方に取るからね。
それでも、いい?
2012/04/13 ロレンシー |