Long Love Letter 04





8月の半ば、謙也くんから返事が届いた。


『 俺の方こそ返事遅くなってすみません。試験、頑張りました、ありがとうございます。 名前さん、ちょっと探してみたけど、まだ見つけられへん…… 』


本当に探してくれていたことには驚いた。すごく嬉しくて、なんだかにやけてしまう。

だけど、私と謙也くんが出会うことは無いんじゃないかと思う。少なくとも、私にとっての過去では出会わない。
だって、謙也くんを除いて、私の知り合いに忍足謙也なんて名前の人はいない。だからいくら謙也くんが探してくれても、2012年に会うはずがないのだ。

でも。
もし、本当に謙也くんが、2012年の私に出会ったら? 私の今は、彼にとっての未来は、どうなるの?


……こんな事、駄目なのかもしれない。
だけど、自分を戒める気持ちは好奇心に勝てなくて。私は、この時ここに居たとハッキリ覚えている日のことを彼に教えた。


『 そっか。えーと、8月31日の夕方、図書館のパソコンを使ったよ。青いピアスをつけてるのが私です。暇なら、おいで。 』







自分で考え、と白石に言われ、考えた。
っちゅーか考えるだけなら、言われんでも、暇さえあればしとんねん。やけどいつの間にか考えとる事が変わってしまう。気付けば、どんな声なんやろう、どんな風に笑うんやろう、そんなことばっかり。

こんなに一つの事を集中して考えるんはテニス以来や。中学高校と、テニス、テニス、テニス。テニスが恋人やったようなもんや。その所為か知らんけど彼女の一人も出来んくて……でもテニス部の連中も皆そうやったから、何の不満も疑問も無かった。

今は。テニスの代わりに名前さんのことをずっと考えて、悶々として。これじゃまるで、俺が名前さんのこと好きみたいやん。


ちゃう。
好きみたい、やない。好きなんや。もう一度名前さんの文字を見てはっきり分かった。

俺は、名前さんに会いたい。




8月31日。
昼過ぎまで白石とテニスをした。
家におっても落ち着かへんし、何も手につかん。せやけどただひたすらラリーを続けるだけで心が冷静さを取り戻した。
図書館に行く前に一度家に帰ってシャワーを浴びて、柄にもなく、念入りに服を選ぶ。鏡の中の自分に何度も「これでええ?」と問いかけるけど返事はしてくれんし、失敗や、白石連れてくればよかったわ。

……けど、服なんて選ぶ必要無い。それはわかっとる。
名前さんが俺を認識したのは2014年の4月。名前さんが郵便受けに残した手紙に俺が返事を送った時や。それまで、俺は名前さんと会ったらあかん。

会いたい。話してみたい。
でも今日は、遠目に見るだけで我慢するんや。



大学の図書館は閑散としとった。
冷房の音と、パソコンコーナーから「カチカチ、カタカタ」と聞こえるだけ。

図書館のパソコンコーナーは、長机一脚にパソコンが五台並んどって、パソコンが向かい合うように長机が二脚くっついとる。その島が六つ。
普段は順番待ちするほど混むこともあるんに、パソコンを使っとるのは五人だけで、二人は男。除外。女の人は三人とも、揃って俺に背を向て座っとる。ああああかん、緊張する。ちゃうところを見て深呼吸や、深呼吸。すぅ。はぁ。

落ち着きを取り戻したところで、反らした視線を戻す、と、俺から見て二つ目の島に座っとる女の人がサイドからこぼれた髪を左耳にかけた。すると俺の目に飛び込む、小ぶりな青いピアス。

そのまま衝撃で止まってしまうんやないかと思うほど、心臓が跳ねた。


近付き過ぎたらあかん。遠目に見るだけ。
そう決めてたんに、彼女の正面の隣のパソコンを起動させ、そこに座る。
ちらっと、一瞬。
顔を盗み見る。
手元の資料とパソコンを交互に見て、何かを一生懸命している名前さん。文字を追って困った顔をしたり、口をちょっと尖らせたり。

あかん。口から心臓出そう。顔も熱い。俺、不審者や。

……名前さん、ずるいわ。
かわええなんて、聞いとらん。





『 見つけました。でも、名前さん、なんや集中しとったし、声はかけへんかった。 今度は未来で会いましょう。 』


……謙也くんはそう書いているけど、私が何かしてたから声をかけなかったんじゃなくて、初めから声をかえるつもりは無かったんじゃないの……?
想像だけどそう思ってしまって、なんだか、謙也くんに咎められている気がした。過去を変えちゃ駄目、って。

うん。そうだよね。ごめんね。
ひとり勝手に盛り上がって勝手にしょぼくれる、そんな自分がひどく情けない。
気にして、ムキになって、支えにして、期待して、落ち込んで。いつまで少女気分なんだ、私は。謙也くんは会えもしない人なんだから。現実を見ないと。

今度は未来で会いましょう。
その謙也くんの言葉に、私は細心の注意を払って答えよう。……そう思っていたのに。過去は駄目でも、未来で会うなら問題ないんじゃないのと、そう思ってしまって。期待を込めて書いた返事に、自分のことながら笑った。
私はばかだ。学ばない。何が「現実を見ないと」だ。


『未来でって、どうやって?』


ねぇ、謙也くん。
二年も先のことって、本当に分かって言ってるの?





2012/03/04



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