Long Love Letter 03




『 せやったら、名前さんて呼ばせてもらいます。名前さんは今年の、あ、2011年の3月まではこの部屋におったんやろ? 2012年は何してたんですか? 』


謙也くんの返事はとても早い。5月末の雨を待っていた時を除けば、毎回、私が送った三日後には返事をくれる。
女の子を待たせない、律儀な、社交的な人。……モテるんだろうなぁ。そんなことを考えながら、傘を畳んでオフィスのエントランスを抜ける。

梅雨になると毎年なんとなく鬱々とするけれど、今年の私は絶好調だ。
仕事の方はまだまだ出来ることが少ない。それでも職務中は、自分でも信じられないくらい集中している。相変わらず家には誰も待っていないけど、家事はバッチリだし、最近はお料理も凝ってみたりして。女子力上昇中だ。


『 2012年は、○大学の文学部の院生だったよ。謙也くんは? 』


文学部の4年生の時、所属していたゼミの教授から推薦をもらった。大学院でもその教授にお世話になり、二年間研究室と図書館に通いつめた。学ぶことが楽しくて楽しくて。
だけど、当時付き合っていた恋人に対してお粗末な対応をした覚えはない。私なりに大切にしたつもりだ。……だって、好きだったんだから。
それでも、院生になって私が実家通いを始めたから、一人暮らしをしていた学部生時代よりも彼と会える時間は減って。私と彼の心は離れてしまった。


『 俺は医学部やけど、同じ大学や! 2012年の名前さん、探してみよかな(笑) 』


え? 医学部?
びっくりして、思ったことが口からこぼれた。
あのマンションに住んでいるのだし、同じ大学かもしれないとは思っていたけれど。医学部だなんて、そんなに賢い人だったのかと、失礼ながらそう思ってしまった。

そんな私を叱るかのように、それから忙しい日が続いた。身を粉にして働いた。謙也くんに返事を書きたかったけど、帰宅してお風呂に入るともう、何かをする前に睡魔に襲われ泥のように眠ってしまう。

ようやく返事を出せたのは二週間後で。
梅雨も明け、すっかり夏になっていた。





『 ごめんね、ちょっと忙しくて、日があいちゃった。 謙也くん、医学部なの。賢いんだね…! ふふ、2012年の私を見つけてごらん。 そろそろ期末試験だよね。頑張ってね。 』

名前さんからの返事がこないに空いたのは初めてで、住所を書き間違うたやろかと内心不安やった。そわそわして、一日に何度も郵便受けを覗いて、空っぽやったり広告だけが入っとったりするのを見ては肩を落とす。

手紙っちゅーんは、じれったい。俺がどんだけ早う返事が欲しくても、待っとらんと来おへん。自分で取りに行くことは出来ん。相手が未来の人なら尚更や。
やから、それなら会いにいこうと思って友達に聞いてまわったんやけど……医学部の友達に聞いたところで、名前さんを知っとる人がおるはずもない。

そうこうしてるうち、彼女の言う通り期末試験は目前で。講義は真面目に受けとる方やし直前に焦るほど余裕無いんと違うけど、どうせならええ成績取りたいし。
何より、名前さんに「頑張ってね」と言われたから。頑張りましたって胸張って返事書けるよう、勉強しようと思った。やから、全部の試験終わるまでは返事せえへん。



「……そう決めたんはええけど、名前さんを待たせとるのが気になるし、名前さんがどんな人なんかも気になってしゃーない。でも何でこんなに気になるんか分からん、と」
「気安く名前さんの名前呼ぶなや」
「はいはい」


8月4日。今日の試験が終わって、帰る前に寄った購買。そこで久しぶりに見かけた白石は女子に囲まれて身動きも取れず、ひたすら話しかけられとった。相変わらずモテとるけど、相変わらずああいうんが苦手らしい。
助けたろうと思って呼びかけると、白石はどうにか彼女らを振り切って「助かったわ。はよ、こっから出よ」と。あ、俺まだ何も買ってへん。そう言えば、手近なカフェに入って一番安いモンを奢ってくれた。……ケチなやつ。

「鈍すぎや」
「ん?」

それにしてもこの店、冷房効きすぎちゃうか。寒いわ。

「千歩譲って、謙也の話を信じたるわ」
「めっちゃ譲ったな」
「せやろ? ほんで、ええ返事書けるように試験頑張りたいからそれまで返事せえへんのも、分かるわ」

うんうん。やっぱり白石は話の分かる奴や。

「お前、なんで自分がそう思うんか、ほんっまに分からへんの?」
「そやねん」
「天性の鈍感さやな」


訂正。白石はひどい奴や。




2012/03/03



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