Long Love Letter 02




今は西暦何年ですか。
お昼休みに会社の同僚に聞いてみると、彼女は訝しげな顔をしながら「2014年でしょ」と、そう言った。私もそれが正解だと思う。

けれど忍足さんは、今が2014年ではないと思っているようだ。からかっているのか、未来からやって来たのか、冬眠でもしていたのか。
忍足さんは優しい人だと思っている私としては、彼にからかわれているとしたら少しだけ悲しい。


一日の勤めを終えて帰宅しても、おいしい夜ご飯やぽかぽかのお風呂は準備されてない。私の帰りを待っていてくれる恋人も、いない。

大学生の時に付き合っていた人とは去年の夏に別れた。丸4年は付き合っていたけれど、彼と別れたことに後悔はない。勿論未練もない。
だけどこうして一人暮らしの部屋に帰ってきた時、なんだか人恋しくなってしまう日がある。待っていてくれるのなら恋人でなくてもいいんだ。家族でも友達でも。大歓迎。でも私の家族は今大阪に住んでいるし、友達だって社会人。なかなか会えない。

だから、とても短い返事でも、こうして私に葉書を送ってくれる忍足さんがなんとなく気になっていた。


ベッドに腰掛けて、忍足さんの文字をじっと見つめる。
消印間違っとります、ねえ。
だったらあなたは今が西暦何年だと思うの、と、そう返事をしよう。新しい葉書を手にとって忍足さんの名前を書く。忍足謙也、さん。実物の彼はどんな人なんだろう。

想像を膨らませてうきうきしながら自分の住所を書いていると、ふと目に入ったものにぎょっとした。思わず二度見して、そこに書いてあることに息をのむ。
この葉書、消印が2012年だ。






『 今、西暦何年ですか? 私は2014年だと思うのですが…… 』


苗字さんからの返事は、俺の想像の右斜め上をいくもんやった。

この人、本気で2014年やと思っとるんか?
そういうボケか?
俺のおもろいツッコミを待っとるんか?

……けど、前の葉書同様この葉書も消印は2014年で。苗字さんの字から伺うに、こんな手のこんだボケやイタズラをする人とは思えへん。

考えても分からない、そういう事は本人に聞くに限る。そう思って返事を書いた。

『 今日は2012年5月12日です。ほんまに2014年なんやったら、証明してください。 』


返事は早かった。

『 2012年は……5月終盤に大雨が降りました。土砂降りが三日三晩続くから、洗濯は済ませておくことをオススメします。 』

文末にちょこんと書かれたヒヨコから吹き出しが出て、「証明してやるわよ」と言っている。そいつに思わず笑ってしまった。俺が勝手に「堅そう」と想像しとっただけで、実は負けず嫌いでおちゃめなんかもしれん。

そしてやって来た、5月の終わり。
先週の天気予報ではお天気お姉さんが「6月まで快晴が続くでしょう」とか言うてたんに、昨日から突然降り出した雨はやむ気配があらへん。その雨は翌々日の明け方まで続いた。






『 苗字さんが言うたこと、ほんまでした。……どうなっとるんですか? 』

ほんまでした、の後に書かれたヒヨコからのびた吹き出しには「すんません」とあった。前に私が葉書に書いたヒヨコとよく似ているから、それを見ながら書いたのだろうか。かわいい人だなぁ。
ますます忍足さんへの興味がわいて、今更だけど、次の葉書では少し自己紹介をしてみようかなと思う。

2014年の私が送った葉書は、2012年の忍足さんに届く。
2012年の忍足さんが送った葉書は、2014年の私に届く。

不思議だ。




『 どうなってるんでしょうね? 私も分かりません…。 とりあえず、改めまして。忍足さん。私は苗字名前です。社会人一年目。よろしくお願いします。 』

『 俺は忍足謙也です。大学1年。年下やし、敬語いりません。名前で呼んでください。忍足って呼ばれるん、慣れてないんで(笑) 』

『 じゃあ、謙也くんも、名前でいいよ 』





忍足という名字はそう多くない。
私が25年の間に出会った忍足さんは、謙也くんを含めて二人だけだ。

謙也くんじゃない方の忍足さんとは、たった一度、文字通りすれ違うようにして出会った。連絡先も交換せずさよならしてしまったから、今どこで何をしているか分からないけれど。彼は「また会いに行きます」と言ってくれた。

忍足侑士くん。元気にしているだろうか?




2012/03/02



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