人との出会い方は千差万別。中には、少し変わった出会いだってある。
そんな“少し変わった出会い”をした私たちは、もっと普通の出会い方をしていればと、そう思う日が来るかもしれない。

だけど、私たちの出会いは決まっていた。






Long Love Letter 01









今年の桜は遅咲きらしい。
明日……四月一日には大学の入学式やというのに、桜が咲く気配はあらへん。盛り上がりに欠けるなぁと思いながら、部屋に最後のダンボールを運び込んだ。引越し業者の人にお礼を言って、ダンボールだらけの部屋に一人になると、明日から俺も大学生になるんやと実感する。

俺は医学部に合格し、府内の大学やけど、一人暮らしをさせてもらうことにした。同じ大学の薬学部には白石、文学部には小石川がおる。
銀は京都、小春は東京、ユウジは神戸にそれぞれ進学し、離れてしもうた。卒業式に来んかった千歳は行方知れずや。あいつ何やっとんねん。

今日俺が入居したサンセットハイツ402号室は、そこそこ新しい小綺麗なとこやった。大家さんもええ人で、配線がどうこうと色々と説明してくれた。……耳が遠いのか、俺の話はあんまし聞こえてへんかったみたいやけど。

郵便受けには、新しい入居者に向けて新聞やら何やらを宣伝するチラシがぎょうさん入っとって、チラシは全部ゴミ袋に入れる。
残ったのはガス会社からの葉書と、宛名の無い茶色い封筒で。封筒は申し訳程度にヒヨコのシールで封をされとるだけで、切手も貼られとらん。開封して中身を取り出すと、一枚の便箋に、えらく丁寧な字で文字が綴られとる。


『 新しい住人さんへ。サンセットハイツ402号室へようこそ。ここでの暮らしを楽しんでくださいね。 前の住人から、2つ。クローゼットの中の落書きは、私のせいではありません。私が入居する前からありました。それから、私への郵便物がもし届いたら、この住所に送ってくれると助かります。 』


その文の下に書かれとったのは、ここからは少し遠い、大阪府内の住所やった。最後に、苗字名前、と差出人の名前。前の住人さんの手紙によるとクローゼットに落書きがあるらしいけど、そないなこと大家さんは言うてたやろか。そう思いながらクローゼットを開ける。せやけど、

「クローゼットの落書きって、そんなん、あらへん」

なんや、イタズラか? エイプリルフールなら明日やで。とまあそんな風に軽く考えた俺はその封筒と便箋を三段ボックスの上に置いた。
荷物を片付けよう。明日から、大学生や。





四月の前半は怒涛のように過ぎていった。
説明会、履修登録、部活の勧誘……と慌ただしい時期が終わると同時に授業が始まる。部活やサークルには入らへんかったけど学部に友達もできたし、家庭教師のバイトもして、そこそこ楽しいキャンパスライフを送った。

同じキャンパスにおる筈の白石や小石川とは四月三週目の今になっても一度もすれ違わへん。かわりに、図書館で木手を見つけた。声をかけるとさも意外そうな顔をされたけど、意外なんはこっちやっちゅー話や。


手紙のことは、すっかり忘れとった。
自分の郵便受けに俺宛やない手紙が入っとって、せやけど宛名には見覚えがあり、これは前の住人の名前やと気付く。あの茶封筒、捨てとらんでよかったわ。

ついでや。あの手紙の返事も送ったろ。







『 苗字さんが言うたクローゼットの落書きやけど、無いですよ。何かの間違いやないですか? 』


どうやら私が出たあと、あの部屋は二年も空部屋になっていたようだ。落書きが無いのは、その間に壁紙を張り替えたからだろう。
大阪の実家の母から、今年京都で一人暮らしを始めた私に転送されてきた、私宛の手紙。そこに書かれた二年前に自分が住んでいた部屋の住所を見て懐かしくなった。

ところで私のあとに402号室に入った忍足さん、どうやら彼は律儀な人らしい。自分から頼んでおいてこう言うのも何だが、前の住人への手紙なんて捨ててもバチは当たらない。なのにわざわざこうして送ってくれて、短くも私への手紙をくれた。なんともスピード感あふれる文字だけど、それも彼の個性なのだろう。

うん。私もお返事を書こう。

『 手紙、送ってくれてありがとうございます。助かります。 いえ、確かに402号室のクローゼットなのですが…壁紙が張り替えられたのでしょうか。無いのならよかったです。 』 
 






五月の始め、苗字さんから葉書が届いた。
自分の走り書きのような字とは違い、一文字一文字丁寧に書かれた、女の人の字。年上なんかな。社会人やろか。俺の想像やと、苗字さんは、真面目でしっかりしとるバリバリのキャリアウーマン。ほんでこれも勝手な想像やけど、美人なんやないかと思ったり。

そんなことを考えながら何となく葉書の表面を見てみる。
俺の住所と名前、苗字さんの住所と名前。オシドリの切手、消印。2014年5月1日。あ、住所が京都になっとる。ほな前の大阪の住所は何やったんやろ。

……2014年?

「は?」

やっぱり、イタズラか?

手短に返事を書いて、葉書をポストに入れた。


『 消印間違っとります。2014年て (笑) 』




2012/03/01



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