好きか嫌いかと聞かれたら、それはもちろん、好きだけども。それは友達としての好き、だったよね……?

昨日部長から投げ掛けられた言葉を何度もくりかえして、答えを探す。講義室の窓際でボーっと外を見ている私の顔はそれはそれは冴えないものだろうけど、これでも頭の中は考え事でいっぱいだ。

財前君のことが好き。友達として。それは間違いない。じゃあ、異性としては、ううん……よくわからない。たとえば財前君と、彼氏彼女の間柄になりたいって私は思っているのか自問自答してみても、はいそうです! とは言えない。だってそんなの、昨日まで考えたこともなかったんだ。12時間ぽっちで答えを出すのは難しい。

中高と部活一筋で過ごしてきた私は、恋愛というものにとんと縁がなかった。……や、部活のせいだけじゃないのかもしれないけどさ……とにかく、胸きゅんなイベントは発生しなかったし、あの頃の私もさほど異性に興味がなかった。少女マンガを読んで、疑似体験なんてしちゃって、それで満足していたのだ。

それが急に、同級生の男子に恋に落ちたなんて。……気恥ずかしい! 今まで無自覚に財前君財前君って寄って行ってたってこと? 無邪気か私!

はああ。私は大きなため息をついた。モヤモヤ渦巻くもの全部を無くして、すっきりしたかった。

「景気わる」

ぼそっとそう言ったのは、振り返るまでもなくわかる。財前君だ。
財前君は私の後ろの列の、私からやや斜めの場所に座った。私は彼が席について鞄からノートやスマホを取り出していくところを、何故だがじっと見てしまっていた。財前君が「なんや」と言うまで。

「えっ、あー、うん、おはよ」

私のぎこちない挨拶に財前君は、なんやこいつ、と言いたげな表情をする。そりゃそうだ。私だってそう思う。なんなんだ私。昨日までどうやって挨拶してたっけ?

さらに困ったことがある。
財前君がなんだか、か、格好よく見える。どういうことなの。元々きれいな顔だとは思っていたけど今日はそういうんじゃなくて……やたらイケメンに見える。私の目は一夜にして取り替わってしまったのだろうか。全く意味がないとわかりながらも、念のために、私はごしごしと両目をこすった。

「寝不足か?」
「え? ああ、そうかな……?」

またも歯切れの悪い返事に財前君はどう思ったのだろう。チラッと私を見たけれど、窓の外へ視線をうつした。私には、それが有難い。見られていると、バレてしまうような気がする。

……いやいや、バレるって。何が。
落ち着け私。心の中で唱えて、仕切り直しを試みる。

「財前君、レポート終わった?」
「……半分は」
「おっ、がんばってるねえ。えらいえらい」
「……」

今度はじっと財前君が私を見た。子ども扱いしやがって。そんな感じの目だ。

そんな視線が。……ううん、視線だけじゃない。広い講義室の中で私の後ろの席を選んでくれることが。寝不足かと聞いてくれることが。いつもよりずっと、それはもう世界が変わったみたいに、私には嬉しかった。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -