「で、最後に忘れ物がないか確認して、撤収な」

何か確認しておきたいことはあるか、と聞かれてないと答える。隣に座っているみょうじが不二君説明上手!とはしゃいだ。そもそもみょうじがクリスマス会の仕事について説明すると言うからこのサークルの部室に寄ったのに、みょうじの説明は、それはもう下手くそだった。順序立っていないし、去年の思い出話に脱線していったりして、前へ進みやしない。部室で本を読んでいた不二に視線で訴えると、不二は苦笑い一つで引き受けてくれた。俺の役割分担は不二と同じになっているらしく、なんとなく安心する。

「でもお前、いいのかよ」
「何が」
「クリスマス会って24日だけど」
「ああ」
「彼女とかいねーの?」
「ぶっは!」

噴き出した。みょうじが。

「みょうじ! 唾!」
「ご、ごめん不二くん」
「ったく」
「……えーと…………、で?」

みょうじは遠慮がちな「えーと」の割に、力強く「で?」と不二の質問を押してくる。なんやこいつ。思わずちょっと笑いそうになって、ふっと息を吐いた。

答えたくないわけやない。けど、誤魔化してみたら面白い反応が見られるかも。彼女がいるか、この質問に例えば、想像に任せる、と返してみたら。
そんなことを頭の片隅で考えながら、はらはらした表情で返事を待っているみょうじを見ながら「おらん」と答える。

「そうなんだ……へえ……」
「ふーん。まあでもこれから出来るかもしれないよな。冬だし」
「……冬って関係ある?」
「イベント続きだからそれまでに彼氏欲しいっつって、うちの三年の先輩らが話してたじゃん。この前の飲み会で」
「はぁ、なるほど……」

くだらない、と思った。その先輩たちの話を俺に当て嵌めようというのも無理がある。
なのにみょうじは感心した様子で、不二の言葉にふんふんと頷いている。あほやなこいつ。……そう思うのに、不二に向くみょうじの横顔から俺は目が離せずこうして横目で追ってしまう。

気づくなという方が、無理な話や。





12月の東京の夜は賑やかだった。
大阪も賑やかな街やったけど、賑やかさの種類が違うと言うか。空気が全然違う。こっちに出て来てもうすぐ丸二年。生活には慣れても、空気の違いにはなかなか慣れない。居心地悪いわけやないから、まあ、ええ。
それはええんやけど。

隣を歩くみょうじがおかしい。駅前で不二と別れるまでは割りと普通にしとったのに、俺と二人になった途端きょろきょろ動く目。妙にどもるし、上擦る声。こうも分かりやすく態度を変えられると、面白い。

みょうじは、まあ、可愛いと思う。顔とか、仕草とか。やたら一生懸命やし。それで多分俺はみょうじに、ほだされとる。
でも今俺は、

「あのさ!」

しばらく静かに歩くだけだったみょうじが急に威勢のいい声で呼び掛けるから、一瞬歩みを止めそうになった。なんやいきなり。みょうじに顔を向けると、らんらんと輝く目とぶつかる。

「クリスマス会のあと! いっ、一緒にどこか出掛けたりとか、どうかな!」
「……そんなでかい声やなくても、真横におるんやから聞こえるわ」
「あっ、うん、ごめん」

今度はしゅんとする。ころころ変わる表情のどれもこれもが少し、……いや、まあまあ可愛く見える。
あかんなぁ。

とぼとぼ、そんな擬音がぴったりな歩みになってしまったみょうじを、今度は喜ばせてやろう。心の中でそんなことを考えていると知ったらみょうじはどんな顔をするんやろう。




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